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1kg痩せたら5分遅くなった…… 原因を研究者が自己分析【前編】
イラスト/田川博之 |
発売中のランナーズ6月号で「速くなるダイエット×15」を監修した研究者の髙山史徳さん(34歳)は、自身も今年2月の別府大分マラソンに向けて4kg減量に成功しました。しかし昨年出した自己ベスト(2時間46分)更新を狙った別大の結果は2時間51分。「痩せたけれど遅くなった原因は?」を髙山さんに自己分析してもらいました。
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練習は充実・体調も良い状態をキープしていた
編集部 まず、今回の記事の背景について教えてください。
髙山 ランナーズ6月号の特集「速くなるダイエット×15」を監修させていただきましたが、実は私自身も、痩せて速くなることを目指していました。具体的には、自己記録更新を目指して参加した別府大分毎日マラソンに向けて、記事の内容をベースに4kgの減量に成功、昨年よりも1kg軽い状態でレースを迎えました。ところが、結果は昨年より5分遅いタイム(昨年:2時間46分、今年:2時間51分)。「1kg痩せたら3分速くなる」とよく言われますが、「1kg痩せたら5分遅くなった」という結果に。
参加した大会は昨年と同じで、気象条件もさほど違いがなかったため、比較しやすい状況が揃っています。そこで、「痩せたのになぜ遅くなったのか?」をトレーニング、体調、テーパリング・栄養戦略、心拍コストといった多様な視点から振り返ることで、マラソンの奥深さを少しでも読者の皆さんに感じていただけたらと思っています。
編集部 ではまず、トレーニングから振り返っていただけますか?
髙山 「痩せることに精一杯で、トレーニングが疎かになったのでは?」と疑われそうですが、今回は充実した練習ができていました。実際、平均走行距離は昨シーズンを上回り(昨年86km/週→今年100km/週)、距離走の回数(昨年10回→今年12回)も増えています。
編集部 トレーニングを頑張りすぎて体調を崩したとか?
髙山 おっしゃる通り、練習を頑張っても体調を崩したら本末転倒です。ただ、私は心拍変動や安静時心拍数といった自律神経の状態を参考にトレーニングをしていることもあり、レースに向けた数か月間、体調を崩すことはありませんでした。数値を見ても、昨シーズンより良い状態をキープできていました。これは、継続的にトレーニングできていたこと、そして怪我が一切なかったことからも嘘ではないと信じてもらえるかと。
編集部 レース前の戦略面はどうでした?
髙山 基本的に昨年と同じです。私はレース1週間前からドカッと距離を落とすテーパリングが好きで、今年もその方法を採用しています。栄養補給についても昨年とほぼ同様で、レース2日前からのカーボローディング、当日の朝は糖質に加えて脂質を含んだ食事をとりました。ちなみに、脂質を入れるのは、レース序盤での過度な糖質利用を防ぎ、カーボローディングの効果を最大化する狙いがあります。レース中の補給も基本的に同じ。もちろん、1年経てば身体の状態も変わるため、同じことが良いことを必ずしも保証しませんが、こういった戦略面が原因とは考えにくいでしょう。
原因は「心拍コストの悪化」
編集部 それでもタイムが5分も遅くなったのは、何が要因?
髙山 ズバリ、「心拍コストの悪化」です。心拍コストとは、あるスピードに対する心拍数の比率を表すパフォーマンス指標で、「心拍数÷時速」で算出されます。数値が低いほど少ない心拍で走れていることを意味します。近年は、パフォーマンスとしての他に、ペース戦略を評価する目的でも研究で用いられています。今回のレースではこの値が昨年より明らかに悪化。序盤にもかかわらず、心拍数はすでに昨年の終盤並みに上昇しており、同じペースでも余裕度がなかったことがわかります。
編集部 心拍コストの悪化=体力が落ちていたということでしょうか?
髙山 そう思われがちですが、実は体力が落ちていたわけではありません。むしろ、今シーズンの方が普段のトレーニング時での心拍コストが良好で、「素の状態」での体力は向上していたと思っています。
それなのに、レース本番では心拍コストが悪化してしまった。その理由の一つとして考えられるのが、レース当日に使用したシューズとの相性です。今年は昨年とは異なるモデルの厚底カーボンシューズを着用しました。どちらも人気の高いモデルですが、昨年履いたシューズでは、同じペースでもトレーニング時より心拍数が10拍以上下がるという恩恵がありました。海外では、ある厚底カーボンシューズを履いた際に、顕著な恩恵な受けられるケースを「ハイパーレスポンダー」と呼ぶことがありますが、まさにその状態でした。
一方で、今年のモデルではそのような効果は得られず、むしろ普段より心拍コストが高く推移する結果となりました。これはシューズの良し悪しというよりも、相性の問題です。パフォーマンスを最大限引き出すには、シューズとのマッチングを事前に把握しておく必要があると、あらためて感じました。
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後編は「心拍コストとペース戦略との関係」について語っています。お楽しみに。
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