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照義、己に克つ ~仙台国際ハーフマラソン編~

2026年5月15日


照義、58歳、男。日課の早朝ランも、レース参加も基本は独り。誰にも気を遣わず、自分のためだけに贅沢な1泊2日を組み立てる。前日は名所を歩き、名物で腹を整える(走る前なので節度はある)。大会当日はマイペースで走り切り、ゴール後はグループ参加の乾杯を横目にレース後の身体を静かにいたわる。速さも順位も関係ない(はずだった)。走る、旅する、食べる―それを真剣に楽しむだけだ。

「孤独のグルメ」的ハーフマラソン旅、今回の目的地は、照義の本気を受け止めてくれる杜の都、仙台。


人に勝つ者は力有り、自ら勝つ者は強し(老子)

仙台は意外に近い。
東北新幹線なら東京から1時間半。さらに在来線に乗り換えれば30分足らずで、宮城県が誇る日本三景・松島の玄関口、松島海岸駅へ着く。

マラソンひとり旅には、どうにもならない要素がひとつだけある。天候だ。レースの日程は決まっている。観光も食事も多少は調整できるが、空模様だけは運まかせである。

だが、この日の松島は見事だった。
空は青く、海もまたその色を映している。小さな島々が静かに浮かび、私が乗り込んだ遊覧船はその間をゆっくり進んでいく。
強風が吹いていたが、せっかくなので外のデッキへ出る。
「ゴォー」というエンジン音とオイルの匂いが気になるが、船の上からしか見られない絶景がそこにあった。


松の生い茂る約260もの大小の島々と、海と空が織りなす風光明媚な景色


私はぼんやり景色を眺めながら、明日のレースを考えていた。

レースの楽しみ方は人それぞれだ。観光メインの人もいれば、ストイックに記録を追い求める人もいる。最近の私は「走って、食べて、観光して帰る」という緩いスタイルが定着している。年齢とともにタイムへの執着も薄れ、楽しんで完走できれば十分、と思うようになっていた。

だが、少し気持ちが変わりつつある。
これまでに3戦を終えた「ジャパンプレミアハーフシリーズ」(JPHS)のエイジポイントランキングが、33位(170人中)まで上がっていたのである。
すると、「もう少し上へ行けるのではないか」と欲が出る。

さらに、先月のぎふ清流ハーフでは1時間52分。次は1時間50分切りという目標が見えてきた。
普段の朝ランはキロ6分前後。21kmを平均5分10秒で押していくのは、今の私には決して楽ではない。それでも今回は挑戦してみたい、と思えた。
明日の仙台国際ハーフは、その挑戦にふさわしい舞台だからだ。


仙台は美味しいものだらけ。前日の腹ごしらえはまぐろ寿司、そして牛タン


レース当日。気温22.5度。記録を狙うには少し暑い。ただ湿度が低いのは救いだった。スタート前はいつも以上にしっかり給水し、第2ウェーブのDブロックから走り出す。
ところが、序盤は混雑でペースが上がらない。1km通過は6分。想定外だった。


スタート前。仙台を本命レースにしているのであろう真剣な面持ちのランナーが多い気がした

スタート前。仙台を本命レースにしているのであろう真剣な面持ちのランナーが多い気がした


混雑がばらけた瞬間、焦りが出てしまい、私は前のランナーを次々に追い抜いていった。タイムを意識すると、だいたいこうなる。

コースは仙台市街地を巡る都市型ハーフ。前半は上り基調、後半は下り。ただし16kmから再び上り坂が待っているので、オーバーペースは禁物だ。今回は珍しくコース高低図まで頭に入っている。

10km付近、このコースのハイライトとも言える定禅寺通のケヤキ並木へ入る。木陰を抜ける風が気持ちいい。沿道では「仙台すずめ踊り」のお囃子が鳴り響き、一気に仙台らしさが濃くなる。

13kmあたりでは大会アンバサダーの高橋尚子さんがコース中央に立ち、両手でハイタッチしていた。私も右手を差し出す。ほんの一瞬なのに、不思議と元気が出る。

そして16km。予定通り、坂が始まる。
苦しい。脚が重い。呼吸も荒い。それでも腕を振る。ペースを落とせば、苦しみからは逃れられる。しかし、ここで落ちたら、1時間50分は消える。
逃げたくなかった、今日だけは。



自分と闘いながら坂を越え、残り3km。フォームは崩れ、泣きそうな顔になっていたと思うが、そんなことを気にしている余裕はない。
最後は競技場のトラックへ入り、そのままペースを落とさずにフィニッシュ。
腕時計のタイムは1時間49分台を示していた。

決して自慢できるタイムではない。若いころの自分と比べれば、むしろ遅い。それでも、自分で目指すと決めたラインを、最後まであきらめずに超えられた。その事実がうれしかった。


あきらめない。その強い思いをキープしたまま、走りきれた

あきらめない。その強い思いをキープしたまま、走りきれた


年齢を重ねると、「無理をしない」が少しずつ上手くなる。できない理由を探すことにも慣れてしまう。だからこそ今回は、きつくなってからもペースを落とさずに踏ん張れたことが、価値あることに思えた。

今日は、私がお世話になった上司の命日なのだ。優しい人だったが、仕事には一切妥協をせず、その人に認められたくてがんばっていた時期もあった。
今回はただ完走するだけではなく、自分で決めたことを最後までやり通す姿勢を貫きたかった。

追い込んだ分、レース後の身体のダメージは大きい。だが、気分は最高だ。会場で食べた冷たい「ずんだ団子」の素朴な甘さが、心と身体にじんわり染みた。


濃姫たちと撮影。シリーズ3大会で最もいいタイムだった

ずんだは旨いうえにタンパク質も補給できる。会場の陸上競技場のすぐ隣は楽天イーグルスの球場(楽天モバイル 最強パーク宮城)だ


早々に着替えて会場をあとにすると、仙台駅からバスに乗った。向かうは秋保温泉だ。

(つづく)



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