本サイトではより多くの方に快適に利用して頂ける様に、アクセシビリティ面を充分に考慮したコンテンツの提供を心がけております。その一環として、閲覧対象コンテンツのすべてにスタイルシートを使用して制作しております。現在閲覧に使用されているブラウザには、当方制作のスタイルシートが適用されておりませんので表示結果が異なりますが、情報そのものをご利用するにあたっては問題はございません。

ニュース・記事

連載

揺れる揺れる、感情 ~ぎふ清流ハーフマラソン編~

2026年5月01日


照義、58歳、男。東京都在住。日課の早朝ランも、レース参加も基本は独り。誰にも気を遣わず、自分のためだけに贅沢な1泊2日を組み立てる。前日は名所を歩き、名物で腹を整える(走る前なので節度はある)。大会当日はマイペースで走り切り、ゴール後はグループ参加の乾杯を横目にレース後の身体を静かにいたわる。速さも順位も関係ない。走る、旅する、食べる―それを真剣に楽しむだけだ。
「孤独のグルメ」的ハーフマラソン旅、今回の目的地は、豊かな自然と歴史が織り成す街、岐阜。


「孤独なとき、人間はまことの自分自身を感じる」(トルストイ)

喜怒哀楽が顔に出やすい人とそうでない人がいる。私は断然、後者になると思う。
「いつも冷静に見える」とか、「楽しそうに見えない」などと言われるが、それは誤解である。出していないだけで、中では普通に感情が揺れている。いや、むしろよく揺れる。

大会前日のこと。岐阜駅に着くと、迷わず長良川方面のバスに乗った。まずは腹ごしらえだ。選んだのは、岐阜のソウルフードと呼ばれる「冷やしたぬきそば」。天かすとお揚げが仲良く並び、甘じょっぱいつゆに、いりごま、ねぎ、わさび。細めのそばがそれらをまとめあげる。これが、うまい。大盛りを注文したのに、あっという間に完食していた。旅の出足は完璧である。


この蕎麦を食べている間は間違いなく最高の気分だった

この蕎麦を食べている間は間違いなく最高の気分だった


満腹のまま、金華山の頂上、岐阜城へ向かうロープウェイ乗り場へ。
改札を抜け、乗車券をしまおうとしたそのとき、気づいた。

定期入れがない。

一瞬、心臓が止まった気がした。いや、止まっていない。むしろ脈が暴走している。あの中には先週買ったばかりのSuica定期券、金額にして5万円超が入っている。
ありとあらゆるポケットに手を突っ込む。何度も何度も。
ロープウェイから見える景色は、私の視界には入らなかった。
「スマホをなくすことに比べれば……」「見つかる可能性はある」「もし出てこなければ、3カ月分の通勤費は……」そんなことを考えていたら、岐阜城の天守へ着いていた。
眼下にはゆったりと流れる長良川。遠くには美しい山並み。しかし、私の脳内には絶景と絶望が同時に存在していた。


心あらずで訪れることとなった岐阜城、そして眼下の美しい景色


下山して、来た道を戻ることにした。目を皿のようにして地面を見つめるが、落ちていない。どこにもない。
そして諦めかけたとき、目の前に現れた「長良川交番」の文字。祈るような気持ちでドアを開けた——

あった。
私の定期入れが届いていた。拾ってくれたのは地元の方だろうか。それともマラソンを走りに来たランナーだろうか。人の優しさが身に沁みた。


シドニー五輪で金メダルを獲得したシーンのQちゃんの銅像

シドニー五輪で金メダルを獲得したシーンのQちゃんの銅像


レース当日。空はよく晴れている。会場に着くころには気温も上がり、走るには少し暑いくらいだが、私にはむしろこれくらいがちょうどいい。スタート地点には、大会長のQちゃんこと高橋尚子さんをはじめ、ゲストには野口みずきさん、有森裕子さん、川内優輝さんといった名ランナーが勢揃い。号砲が鳴ると、彼らが至近距離で手を振り、大声で送り出してくれる。気持ちが昂り、いつもよりだいぶ速いペースで最初の1kmを通過していた。


地元小学生の手描きメッセージがうれしい

地元小学生の手描きメッセージがうれしい


序盤は、どこか懐かしさの残る柳ヶ瀬や川原町の古い街並みを抜けていく。やがて長良川の河岸へ。新緑に包まれた金華山と清流の景色は、この大会のハイライトと言っていい。
もうひとつ印象的なのが応援だ。子供から大人まで、地元の皆さんが全力でランナーを応援している。距離が進むにつれ、身体はきつくなってくるが、まだ終わってほしくないという気持ちもかすかにある。この矛盾こそが、ハーフマラソンの面白さか。
フィニッシュすると、受け取ったタオルで汗をふき、岐阜名産のいちごを頬張ると、心地いい疲労感がやってきた。


濃姫たちと撮影。シリーズ3大会で最もいいタイムだった

濃姫たちと撮影。シリーズ3大会で最もいいタイムだった


だが、これで終わりではない。今回のアフターレースのお楽しみは、「爆風スランプ」サンプラザ中野くんとパッパラー河合さんのライブだ。あの力強い歌声を生で聴けるのだ。
1曲目は私の好きな『大きな玉ねぎの下で』で始まり、ラストはもちろん『Runner』。ステージにはQちゃんやゲストランナーたちも集まり、会場全体で大合唱になる。



「走るー走るー、おれーたーちー」

ついさっきまで走っていた人たちが、一緒に歌っている。私も拳を小さく振り上げて、歌った。いつも聴いていた高校時代の自分に伝えたい、大人になってもこんな最高な瞬間が待っていることを。



ライブが終わり、シャトルバスに乗る。柳ヶ瀬で途中下車し、昭和の雰囲気を残す商店街を歩くと、明治27年創業の銭湯「のはら湯」を見つけた。これは入るしかない。


120年余り続いている銭湯。中にあるマッサージ椅子、体重計もレトロなものでした

120年余り続いている銭湯。中にあるマッサージ椅子、体重計もレトロなものでした


中へ入り、「ケロリン」と書かれた黄色い洗面器で汗を流し、湯に浸かる。レースで酷使した身体が、じんわりとほぐれていく。私はこの2日間を思い返していた。
美味いそばに満足し、落し物をして焦り、人のやさしさに救われ、走って、苦しんで、楽しんで、興奮して、最後は銭湯で癒される。顔には出ていないかもしれないが、内側では、間違いなくいろんな感情が渦巻いていた。


********


照義の次の目的地は5月10日(日)、仙台国際ハーフ。
連休明けてすぐの照義に、またどんな感情が、出会いが待っているのであろうか。



RUNNETのインスタグラムでも「孤独のラン」を更新中。
照義さんのオフショットや動画をご覧いただけます。
リアルボイスでのナレーションも聞けるかも!?
ぜひフォローして投稿をチェックしてください!






※こちらから記事検索ができます。

ランナーズ7月号 5月21日発売!


ロンドンで人類初の2時間切りが誕生!
「驚異的ペースアップの裏側」

4月26日に開催されたロンドンマラソンで、ケニアのセバスチャン・サウェ選手が1時間59分30秒をマークし人類初のフルマラソン2時間切りを達成しました。この記録が実現した背景について、筑波大学の鍋倉賢治先生が科学的見地から分析。今後の記録更新に向けての注目点についても言及しています。また瀬古利彦さん、藤原新さん、吉田響選手ら識者もコメントを寄せました。

第22回全日本マラソンランキング

2025年4月から2026年3月の1年間、日本国内で開催されたフルマラソンの各種データをまとめた「全日本マラソンランキング」。対象大会数は108大会で過去最多でした(前年度92大会)。メインのコンテンツの「フルマラソン1歳刻みランキング」は各年齢上位100位を掲載。本誌に掲載の、ランキングで誕生した記録やストーリーをピックアップする「偉大な記録からほんわかストーリーまで 全日本マラソンランキングトピックス×18」特集も合わせてお読みください。

週一スピード走は月間走行距離100km増と同効果!
& プレイバックRUNNERS Since1976「継続できるスピード走」

今年、ボストンマラソンの参加者(2022年)を対象にしたトレーニング調査の結果が報告されました。それは「レース記録は、走行距離に加え “スピード練習の回数” と強く関連している」というもの。この研究を踏まえて、兵庫県立大学の森寿仁先生が春先からスピード走を実践することの有効性を解説します。



本誌購入は年会費7,800円「ランナーズ+メンバーズ」がお勧め!

「ランナーズ+メンバーズ」は毎月最新号が自宅に届く(定期購読)だけでなく、「デジタルで最新号&2011年1月号以降が読み放題」「TATTAサタデーランが年間走り放題」「会員限定動画&コラム閲覧可」のサブスクリプションサービス! 年会費7,800円の超お得なプランです。



※こちらから記事検索ができます。

記事をもっと見る

ランニング初心者集まれ