本サイトではより多くの方に快適に利用して頂ける様に、アクセシビリティ面を充分に考慮したコンテンツの提供を心がけております。その一環として、閲覧対象コンテンツのすべてにスタイルシートを使用して制作しております。現在閲覧に使用されているブラウザには、当方制作のスタイルシートが適用されておりませんので表示結果が異なりますが、情報そのものをご利用するにあたっては問題はございません。

ニュース・記事

ランナーズonline

京都で320年の歴史を持つ旅館の内儀はフル3時間39分 「走ることで五感が研ぎ澄まされる」

2026年9月17日

※本記事は『ランナーズ2026年10月号』掲載内容になります。(全2ページ/1ページ目)

企業の経営者や組織のトップに立つ人にランニング実践者は多い。そんな〝トップランナー〟にとって、走ることはビジネスにどんな影響を与えているのか? 当社社長・黒崎悠がインタビューする連載の第38回。今回は、現存する京都最古の旅館といわれる俵屋旅館の専務取締役、佐藤春華さんです。故スティーブ・ジョブズ氏が定宿にしたことでも知られ、320年の歴史を持つ旅館を取り仕切る佐藤さんは、マラソン自己ベスト3時間39分。「走ることで五感が研ぎ澄まされ、クリエイティブな感覚が磨かれる」といいます。

聞き手/黒崎 悠 文/吉田誠一 写真/塩川真悟


京都市内中心部に位置する俵屋旅館。鴨川からも近い


俵屋旅館 専務取締役 佐藤春華(53歳)
1997年 俵屋旅館、遊形入社
2000年 遊形取締役
2019年 俵屋旅館常務取締役
2024年 俵屋旅館専務取締役


―― 江戸時代・宝永年間(1704〜11年)の創業とお聞きしました。320年続く旅館を経営する仕事とは、どういうものなのでしょうか。
「お客様にごゆっくり、くつろいでいただける環境を裏方としてつくるのが我々の仕事です。伝統的な建物のメンテナンス、お庭の手入れ、床の間の掛け軸など、しつらえを整えることで、お客様にいかに楽しんでいただくかを考えています」

―― くつろいでいただくために大事にしていることは。
「6月に亡くなった私の義理の母であり、俵屋11代主人の佐藤年は、お客様を感動させるというおこがましい気持ちを持ってはいけないと、よく言っていました。お客様が喜んでくださっているのを見て、我々が喜びを感じられることが重要だというのです。ですから、俵屋は派手なことはしません。普通のことをきっちり、きめ細かくやっていくことがモットーです。自然体を大事にしています」

―― 現存する京都最古の旅館ということですが、なぜここまで続いてきたと考えていますか。
「俵屋は創業時からあまり大きくなっていません。母が60年ほど前に新館を築いたくらいです。我々の目の届く範囲で営んできたことが、長く続いた要因の一つかもしれません。自分たちの身の丈に合ったサイズ感で経営しています」

―― 一日の仕事の流れはどのようになっていますか。
「午前11時がチェックアウトなので、お客様がすべて出られた11時半からチェックインの午後3時までにお掃除、お風呂洗い、お庭の手入れなどを済ませます。その間は戦争のような状態です。私は館内を回ることで、生けたお花やしつらえをチェックします。さっと通ることで、おかしなところが目に留まります」

―― その3時間が勝負ということですか。
「部屋係というサービス担当の女性や総料理長をはじめとした板場さんは夕方4時、5時から忙しくなります。24時間、誰かがものすごく働いて旅館を成り立たせています。社員はパートも含めて85人、旅館で使う器、お盆、タオル、シーツ、枕カバーなど備品を企画・製作する株式会社遊形を合わせると100人ほどになります。私には社員のマネジメントやリクルーティングの仕事もあります。そのほか、たとえば、お座布団の冬物から夏物への入れ替えの手配も私の仕事です。俵屋のテイストからずれないように布の選定から始めます」

―― 使用する備品のひとつひとつに、細かなこだわりがあるのですね。
「取引をしていた専門の座布団屋さんが2年前に廃業してしまって困りました。お風呂の素材となる大きな高野槇もなくなってきたそうです。コロナ後は日本食の料理人も減りました。板場さんの後継者を育てることも重要な課題になっています」

―― 旅館の仕事を理解し、習得するには苦労を重ねたのではないでしょうか。
「私は23歳で(株式会社俵屋旅館の佐藤守弘代表取締役と)結婚して、俵屋に来ました。嫁ぎ先が仕事場でした。義理の母の付き人というか弟子のように、隣でその仕事ぶりをすべて見て学んできました。いまとなれば、それは修行みたいなものだったと思います」


「走ることで自分の道が開けた」アメリカでの学生時代


―― 高校・大学時代をアメリカで過ごしたそうですね。
「生まれは横浜ですが、中学卒業後に父の転勤に伴って、ボストンから車で1時間ほどのウースターという町の近くに引っ越しました。『日本ってどこにあるの?』という感じの人が多い町でした。現地の高校に入ったものの、英語は中学校卒業レベルで、うまく話せません。でも数字がわかればできる数学と理科だけは、結構成績が良かったので、不思議な子だと思われていました」

―― 高校では何かスポーツをしていましたか。
「アメリカの大学に入るには、学業以外でどういう活躍をしたかも書類審査で問われるので、スポーツをしようと思いました。走ることはちょっとだけ好きだったのと、ランニングは人と英語でコミュニケーションをさほど取らなくてもできると思ったのでクロスカントリー・ランニング部に入りました」

―― 競技成績はどうでしたか。
「週1回のレースでいつも学内2番でした。ある少し大きな地区大会で、いつも学内1番の子が途中棄権したため、私が優勝してしまいました。それが新聞に載って、学校ではみんなが握手を求めてくる騒ぎになりました。この実績を、大学受験の出願書類に書き込みました。それが理由ではないでしょうが、コロンビア大学工学部応用数学科に入学できました。周囲が私を見直してくれたことも含めて、走ることで自分の道が開けたと感じました」

―― 大学でも陸上競技を続けたのですか。
「コロンビア大学の陸上部はレベルが高いので、私の力では入れませんでした。ただ、大学4年目の1995年にニューヨーク・シティマラソンに出場しています。大会前に5㎞を5回、8㎞を1回走っただけなのに、中間点まで1時間40分で快調に走れました。でも、『マラソンってそんな大変じゃないな』と思ったとたんにガクッときて、後半は地獄を見ました。歩いては立ち止まりで、何とか4時間55分でゴールしました。翌日、大学ではみんなに拍手され、褒められたので、すごく得した気分になりました。マラソンを1回走っただけで、人の見る目がこんなに変わるのか、と思いました。しかしその後、間もなく結婚して俵屋に入り、2人の息子の子育てもあり、30年近くマラソンを走ることはありませんでした」


高校時代の思い出の地を走った2025年ボストンマラソン(3時間48分56秒)

高校時代の思い出の地を走った2025年ボストンマラソン(3時間48分56秒)


「マラソンを走れば人生がいい方向に向かう」


―― 長い年月を経てまた走り始めたのは、なぜですか。
「2021年に義母が病気で倒れたため、それまで義母がしていた仕事をすべて私がこなさなくてはならなくなりました。旅館の経営と介護と2人の息子の受験が重なって、一気にプレッシャーが掛かりました。精神的に苦しかったので、お医者さんから、ストレスを解消するものを見つけたほうがいいと言われていました。そのタイミングで、義母が通っていたリハビリテーションクリニックで『マラソンを教えます』という貼り紙を目にしました。そのとき、マラソンを走れば人生がいい方向に向かうのではないか、と思ったんです」

―― それで、そのランニング教室に通い始めたわけですね。
「月に2回通って、レースにも出ました。ハーフマラソンなどを経て、22年の富山マラソンでニューヨーク以来のマラソンに挑戦し、3時間59分58秒のサブフォーで走れました」

―― 学生時代走っていたとはいえ、ブランクを経ていきなりサブフォーはすごいです。
「といっても、私はタイムを求めていたわけではなく、俵屋に入って30年間、旅行をしたこともあまりありませんでしたから、遠くに出掛けること自体が楽しかったのです。出る大会は、オホーツク網走マラソンなど景色のいいコースを選んでいました」

―― ほかにも地方の大会にかなり足を運んでいますね。
「23年が富士山マラソン(3時間51分59秒)、24年は長野(3時間42分38秒)、25年はボストンマラソン(3時間48分56秒)に出場しました。ボストンマラソンは、かつて私が住んでいたマサチューセッツ州の人たちのあこがれの大会。当時の私は自分がボストンを走るようになるとは考えたこともありませんでしたが、思い出の街を走ってみたかったんです」






無料エリアここまで

※こちらから記事検索ができます。

ランナーズ10月号 8月21日発売!


「走りたい」気持ちを駆り立てる厚底シューズ
ショップ店員が勧める注目の14足

「マラソン2時間切り」を掲げて2017年にナイキが初めて発売した厚底カーボンシューズは近年、速いランナーだけの “特別な存在” ではなくなってきています。本特集では幅広いランナーに厚底カーボンを勧める識者や愛用するランナーの声を紹介するとともに、ショップ店員が勧める注目厚底カーボンシューズ×14を掲載します。

本気で燃え尽きれば50代サブ3.5は必ずできる!

「本気で取り組めば、50代サブ3.5はかなりの確率で可能」。本企画では、一人のランナーの実話を通して50歳を超えてから初のサブ3.5をするためのヒントを紹介します。あわせて、「50代に必須の筋トレ」「スピード走&レース出場」など、走力を向上させたい50代ランナーにお勧めのトレーニングを本誌50年分から厳選して紹介します。

ランニング界に “元気” をもたらす
「走るZ世代」増加中!

いま、若者たちの間でランニングが新しいカルチャーになりつつあります。スマートフォンやSNSとともに育ち、青春時代にコロナ禍による活動制限も経験した世代。彼らはなぜ走り始めたのか。そしてランニングに何を求めているのか。データと現場取材を通して「走るZ世代」のリアルに迫ります。



本誌購入は年会費7,800円「ランナーズ+メンバーズ」がお勧め!

「ランナーズ+メンバーズ」は毎月最新号が自宅に届く(定期購読)だけでなく、「デジタルで最新号&2011年1月号以降が読み放題」「TATTAサタデーランが年間走り放題」「会員限定動画&コラム閲覧可」のサブスクリプションサービス! 年会費7,800円の超お得なプランです。



※こちらから記事検索ができます。

記事をもっと見る

ランニング初心者集まれ