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ランナーズonline

【連載:バックヤードウルトラ⑪】毎時間6.7km走り続ける苦悩と問い直された初心(オーストラリア・Dead Cow Gully編 後編)

2026年7月03日

2026年6月Dead Cow Gully Backyard Ultra、ラスト4名のスタートライン

2026年6月Dead Cow Gully Backyard Ultra、ラスト4名のスタートライン


「1時間で6.7km走る」ことを身体の限界まで繰り返す、バックヤードウルトラという競技をご存知でしょうか。近年国内外ウルトラランナーの間で人気が高まりつつあります。この競技に魅せられて脱サラ、大会に参加するだけでなく自身でも大会を企画、さらには普及活動も行っている水野倫太郎さんがその魅力について綴る連載です。


「私たちはどこまでいけるのか?」自身二度目の参戦となったオーストラリア・クイーンズランド州のDead Cow Gully Backyard Ultra。昨年に引き続き小松広人選手と私、そして初参戦となった10日間走日本記録保持者の吉沢協平選手。計3名の選手に対し、ゴールドコースト在住日本人のジュンさん、Sydney在住のPeter、そして日本から私の妻。3名のサポートクルーが現地に駆け付けてくれました。主催者Timから提供されたテントエリアは、なんと彼の自宅の庭先。アウェイ感すらあった昨年とは異なり、「帰ってきた」という安心感が出迎えてくれました。

Dead Cow Gullyの牧歌的な雰囲気と壮大な景色は、昨年と変わらず。変わったことと言えば、1年前は「Masters」という位置づけで世界から強豪選手が集結していたのに対して、今年は、オーストラリア国内の選手が大多数だったこと。自己ベストだけでいえば、94LAPの私が2番目の有力選手。(トップは、地元オーストラリア・95LAPのRyan Crawford選手)

5月30日 現地時間午前7時から、レースがはじまると、雰囲気は和やかそのもの。あらゆる世代のランナーたちがおしゃべりをしながら、さながら“行進”を楽しんでいました。最年少の9歳の少女をはじめ、親子連れでの参加者もちらほらと目につきました。4月に参加したシドニーのレースのフェスのような雰囲気と比べると、よりアットホームで温かい印象。再会や新たな出会いを楽しみつつ、レースが進行していきます。

残念ながら、吉沢さんは、熱中症のため、8LAPでDNF。その後は、クルーとして小松さんと私のサポートに回ってくださいました。気温自体は、初夏の日本よりは低い20℃前後でしたが、じりじりと刺すような日差しには一筋縄ではいかない手ごわさがありました。
小松さん、私はいずれも、体力を温存し、かつ体温の上昇を抑えるために、他選手よりもスローペースでレースを展開。48LAPを終えた頃には、残る選手は、小松さん、私、オーストラリアの若手選手Jayden MaccormackとSam Christieの計4名。
各選手、ペースにばらつきはあれど、それぞれに淡々としたリズムを維持し、レースは長期戦に突入するかに思えました。

55LAP目。それは、一瞬の気の迷い、判断ミスでした。猛烈な眠気に襲われ、私は、コース上で2分の仮眠を試みました。ちょうどすぐ近くを走っていたSamが「2分だったら待つよ」と言ってくれましたが、遠慮して先に行ってもらいました。コース上に横たわり、ふっと気づいた時には手元の時計では約20分近くが経過していました。一瞬、自分が今、何をしているのかもわかりませんでした。
一拍おいて、自分の状況を思い出し、飛び起きました。残りは3.5㎞、あと15分。全速力で駆け出しましたが、時すでに遅し。スタートラインにたどり着いたのは、小松さん、Jayden、Samが56LAP目に出発してから約3分後のことでした。選手としてのDead Cow Gully 2026は、あっけなく幕を閉じました。

小松さんは、その後、59分台に戻ってきては再スタートという驚異的な粘りを見せたのちに、62LAPを走り切ったところで脱落。最終的には、Samが66LAPで最後の一人となりました。

2度目のDead Cow Gully。去年とは異なる展開、異なる結果が待ち受けていました。
レース翌日、身体のダメージの少なさが、悔しさを一層かき立てました。今回こそは最後の一人まで走り抜かなきゃいけないと思っていたし、最後の一人まで走り続けるための経験値も、手応えもありました。
そんな私に対して、共に走った小松さんから投げかけられたのは「楽しめていた?」という問いでした。ハッとさせられました。
バックヤードウルトラに特化して、経験や技術を積み重ねてきたという自負、プロとして勝たなければならないという責任感、バックヤードを走ることへの慣れ。いくつかの要因から、純粋に「走ることが楽しい!バックヤードが好き!」という気持ちをどこかに置き忘れていたのかもしれません。
3月から続いた3度の海外遠征の末に、たどりついたのは「初心」でした。「バックヤードウルトラが大好き!」これからもその想いと共に。



<プロフィール>
みずの・みちたろう
プロウルトラランナー。1995年生まれ。神奈川県秦野市在住。バックヤードウルトラを主戦場に、2024年、2025年、日本代表として世界選手権に出場。自己ベストは 94LAP/約630km。
活動の軸は、走ること・伝えること・つくること。『走るはつなぐ』『共走』をテーマに、「丹沢ループス」「バックヤードウルトラ神奈川大会」等のイベント企画やバックヤードウルトラのドキュメンタリー上映会・ポッドキャスト配信にも精力的に取り組む。2026年は海外バックヤードを転戦予定。



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