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SPORTSついおろそかにしがち!? 「質の良い睡眠」こそがパフォーマンスを高める!(PART3)
Question
朝や日中、体内時計のリズムに沿って過ごすことが、大切なリカバリータイムである睡眠の質にも影響することを知りました。夜、就寝の時間に向けて心掛けたほうがいいことはありますか?
Answer
寝るまでに身体の活動を、徐々にオフモードにしていくことを意識しましょう! トレーニングや食事は寝る3時間までに終わらせて。就寝時には頭も身体も、しっかり休める状態に。
回答者:深野祐子(管理栄養士・ランニングコーチ)
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【夜のポイント】身体を睡眠モードにうまく切り替えていく
――夜、いよいよ睡眠を迎える時間帯が近づくわけですが……!
深野先生(以下F):注目したいのは体温です。身体の中心部の温度(深部体温)は、睡眠時より覚醒時のほうが高くなります。睡眠中は深部体温を下げて、臓器や筋肉、脳を休ませているんですね。
体温は、筋肉や内臓によって生み出される熱と、手や脚からの熱放散によって調節されています。「深部体温」は日中高くて、夜低い。手足の温度「皮膚体温」は昼に低くて夜高い。たとえば小さな子どもの手が眠たくなると温かくなるのは、手から盛んに熱を放出して「深部体温」を下げているから、なんですね。質の良い睡眠をとるカギは、ここの体温コントロールなんです。
――体温への意識はかなり大事ですね。夕食後ランニングをしてお風呂に入ってそのまま布団に入り、スマホを見ながら寝落ちする……というパターンの人は、どうやってコントロールをすれば…?
F:まず運動は、就寝3時間前までに行うのがベストです。また食事は、バランスの良いものを就寝3時間前までを目安に摂りましょう。
そして、寝る1~2時間前を目安に、ぬるめのお湯(30~41℃程度)で入浴します。食事や運動、入浴などで、深部体温を“上げる”ことがポイント。身体は高くなった体温を下げようとしますが、そのタイミングがスムーズに眠りにつきやすい時間帯です。
また、就寝1時間前や強度の高すぎる運動をすると、眠りを妨げる原因にも。寝る前なら、副交感神経を優位にし、リラックスできるようなストレッチなどがおすすめです。
夕食では睡眠中しっかり身体が修復される栄養を
――なるほど、寝ることに向かってどんどん身体をリラックスモードにしていくイメージが湧いてきます。夕食の摂り方には、何かポイントはありますか?
F:主食・主菜・副菜・汁物(+牛乳・乳製品、果物など)が揃ったバランスの良い食事が基本です。食べること自体、代謝を高め体温を上げますが、温かい味噌汁やスープなどの汁物で身体を温めるのも良いですね。睡眠中の成長ホルモンが多く分泌されるタイミングで身体が修復できるように、夕飯で摂ったものは寝る前の時点で基本的に消化され、栄養が身体に満ち足りた状態で眠りにつくのがベスト。寝ている間は胃腸を休ませることが大切です。
発芽玄米、麦や雑穀を混ぜたごはんのように、食物繊維が多く、糖質の吸収がおだやかなものを主食に選び、筋肉の合成を促すシグナルとなる必須アミノ酸「ロイシン」を多く含む肉や魚、卵、大豆・大豆食品などの良質なたんぱく質の食材や食品をとり、素早く疲労を回復させましょう。また、たんぱく質の中でもほたてやえび、かじきまぐろなどに多く含まれる非必須アミノ酸「グリシン」は深部体温を低下させるのを助け睡眠の質を高めることなどが期待されています。夕食のメニューに取り入れてみてもよいでしょう。もちろんビタミン、ミネラルを多く含む野菜、海藻、きのこなどもバランスよくとりましょう。
さらに、たんぱく質の中でも、非必須アミノ酸「グリシン」が多く含まれる、ほたてやえび、イカ、タコ、かじきまぐろなどの魚介類を摂るのもおすすめ。グリシンには手足の血流を増やすことで身体の熱を逃して深部体温を低下させるのを助け、スムーズに深い「ノンレム睡眠」に到達させる効果が報告されており、睡眠の質を高める、ぐっすり眠れることで目覚めを改善することなども期待されている栄養素です。
一方で、夕食のドカ食いや夜遅い時間帯の食事は、胃腸が消化のために働いた状態で眠りにつくことになり、睡眠の妨げになります。また、夜遅い時間帯のプロテインの“ガブ飲み”にも要注意たんぱく質は体内で消化分解されることから、胃腸に負担をかけてしまう可能性があります。今は消化分解の必要ないアミノ酸がベースのスティックタイプのプロテインも市販されています。胃腸に負担も少なく、十分な量のたんぱく質が摂れますので、活用するといいですよ。
夕食が遅い時間になってしまう場合は、補食を活用しながら夕食を分割してとるようにしたり、夜遅くなる場合は脂質が少なく、消化のよいものを選ぶようにしましょう。また、脳を覚醒させてしまうカフェインを含む飲み物(コーヒーや紅茶のほか、エナジードリンクも)は、夕食以降控えて。深酒や寝酒などのアルコールも睡眠の質を下げてしまうため、特にトレーニングを行った際は適量にとどめるか避けたほうがよいでしょう。
――よくわかりました! 寝ているようでいても、胃腸を働かせ続けている状態では、身体は休めていないんですね。
F:その通りです。それから…眠るための身体の準備が整っても、『脳』が眠る準備ができていないとなかなかスムーズに眠りにつくことができません!
――「脳」の眠る準備…ですか?
脳や胃腸も休まった状態で、いざ就寝!
F:先ほどスマホを見ながら寝落ちする…なんて話がでてきましたが…(汗)。眠りを促すホルモン『メラトニン』は、脳で“光”を感じて分泌量を調節しています。朝は光の刺激で『メラトニン』の分泌量が減り、活動モードに切り替わり、夜暗くなると『メラトニン』の分泌量が増え、体は睡眠モードに切り替わります。
特にスマホやPC、LED照明の光など、“ブルーライト”と呼ばれる強い光は身体を目覚めさせる作用が強く、眠る直前までPCで仕事をしている、布団の中でスマホをみている…など、夜に強い光の刺激を受けると、本来夜に分泌されるはずの『メラトニン』の分泌量が減り、睡眠の質を下げる原因となります。
また、スマホやPCなどはブルーライトの影響だけでなく、使用することで脳が“興奮状態”になっていることも睡眠を妨げる要因になるため、就寝1時間前には使用をやめるなど、強い光の刺激を避け、脳も眠りにつきやすいように準備していくことも、よい眠りのためには大切。布団やベッドに入ってから眠りにつくまでに時間が必要なら、本を読むのがお勧めです。
特に、レースに挑戦! 自己ベスト更新! と日々パフォーマンスアップのためにトレーニングしているランナーからは、気が付かないうちにトレーニングそのものが身体に大きなストレスとなっていたり、レース前の不安や緊張から十分に質の高い睡眠をとれない、といった悩みも伺います。
ハードなトレーニングに取り組んでいるときこそ、リカバリーも重視することが大切。体温が高い午後~夕方はポイント練習などの高強度の運動をするのに向いていますが、就寝3時間前には終わらせましょう。むずかしいときは「ロイシン高配合必須アミノ酸ミックス」で速めのリカバリーを促したり、深部体温を下げ、脳が寝る準備をするのをサポートしてくれるアミノ酸「グリシン」を摂取するなど、工夫できると良いですね。
また、できるだけ平日と休日に睡眠リズムに大きな差が出ないように心がけると良いでしょう。「寝だめ」はお勧めできません。また、トレーニングそのものも体内時計を動かす刺激になります。できるだけ同じ時間帯に行うと身体のリズムが整いやすくなります。
――逆に、身体のリズムは、自分でつくることも可能、ということですね…!
そうですね! だからこそそれを活用して、たとえば早朝スタートの大会に出る予定なら、本番に向けて1~2週間前から就寝時刻や起床時刻、食事時間やトレーニング時間をレースを想定した時間に合わせたり、海外マラソンに出るようなときも時差に合わせて睡眠スケジュールや食事のタイミング等を工夫して、睡眠と覚醒のリズムをシフトさせ、大会の時間帯にパフォーマンスを発揮しやすい状態を作っていくと良いでしょう。
トレーニング以外の、生活習慣、食習慣、生活リズムや睡眠環境を整えるなど、自分でコントロールできるところは工夫をし、“よい睡眠”をとってパフォーマンスアップにつなげていきたいですね!
――睡眠の質に目を向けると、日中や夜の過ごし方にもメリハリがつきそうです。トレーニングと合わせて、質の良い睡眠のための朝の過ごし方、夜の過ごし方、心がけてみます!!
(おわり)
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《参考文献》
・健康づくりのための睡眠指針2014(厚生労働省)
・健康づくりのための睡眠指針2014~睡眠12箇条~に基づいた保健指導ガイドブック
・睡眠医療 アスリートと睡眠 Vol.14 No.1 2020(ライフ・サイエンス)
・臨床 スポーツ医学 アスリートと睡眠 Vol.36 No.7 2019(文光堂)
・基礎休養学 一般社団法人日本リカバリー協会(メディカ出版)
・トコトンやさしいアミノ酸の本(日刊工業新聞社)
・e-ヘルスネット 眠りのメカニズム(厚生労働省)
⇒ https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-002.html
・いきいき健康研究所(味の素)
⇒ https://report.ajinomoto-kenko.com/suimin/nayami.html
・アミノ酸栄養科学ラボ(味の素)
⇒ https://sports-science.ajinomoto.co.jp/knowledge/