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スポーツ栄養
SPORTSランナーの質問箱「走っているのにやせない⁉ その理由は…」(前編)
Question
ダイエット目的で走り始めたのに、なかなか体重が減らず困っています
Answer
ランナー的減量の成功とは、単純に「体重が減ること」ではありません。
回答者:深野祐子(管理栄養士・ランニングコーチ)
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――運動不足と体重増加が気になりランニングを始めたのですが、なかなか体重が減りません。なぜでしょうか?
深野先生(以下、F):まずはランニングを始めた自分をほめてください。体重を減らして結果を出すのは大事ですが、有酸素運動であるランニングを続けることによって、代謝の機能が上がり、蓄積された体脂肪をより燃焼しやすくなったり、食べたものがより体脂肪になりにくい身体になるなど、改善されることは他にもたくさんあります。
焦って1カ月で何キロ落とすとか、ランニングをダイエット中の期間だけ行う一時的なものとせず、身体の機能を保ったり、自身の健康管理を行う意味でも、長く付き合っていただきたいと思います。もちろん、増えてしまった体重を減らすための運動としてもランニングはおすすめです。
人の身体が変わるのに、最低でも2~3カ月はかかります。ランニングを始めて1カ月で体重が減らなくても、身体の内側の機能(脂肪燃焼や心肺機能の向上など)は改善されている可能性もあります。短期的に「体重」という数値だけにとらわれず、体調なども含めた身体の変化にも注目してください。ところで、「減量の成功」ってどういうことだと思いますか?
――体重が減ること…ではないのでしょうか?
F:減量の成功とは、体脂肪を減少させ、徐脂肪体重をできるだけ維持させる状態を言います。体重を構成する要素は骨や臓器も含まれますので、必ずしも“軽い”体重がよいわけではありません。
BMI(※)が25を超えていて体脂肪率も多い場合、健康診断の結果で減量が必要とされる場合、明らかに身に覚えがあって体重が増えてしまった場合(間食が増えた、運動量が減ったなど)などは、適正な体重に戻すために減量は必要です。一方、BMIや体脂肪率が標準の範囲内であれば、体調、動きやすさ、集中力や疲労回復など身体の状態(パフォーマンス)がよい体重を目指すことが大切です。
体重を減らす目的でランニングを始めたとしても、ふとしたきっかけでマラソン挑戦を決意し、 “トレーニング”としてランニングに取り組むようになったら、こういった考え方はより大切になります。
1.BMI
計算方法
BMI(Body Mass Index)
BMI=体重㎏÷(身長m×身長m)
適正体重=(身長m×身長m)×22
日本肥満学会の判定基準
18.5未満 | 低体重(痩せ型) |
18.5~25未満 | 普通体重 |
25~30未満 | 肥満(1度) |
30~35未満 | 肥満(2度) |
35~40未満 | 肥満(3度) |
40以上 | 肥満(4度) |
参考:日本食事摂取基準による目標BMI
年齢 | 目標とするBMI |
---|---|
18~49歳 | 18.5~24.9 |
50~64歳 | 20.0~24.9 |
65~74歳 | 21.5~24.9 |
75歳以上 | 21.5~24.9 |
2.体脂肪率
体脂肪率のめやす
男性 | 女性 | |
---|---|---|
非常に多い | 30%~ | 35%~ |
多い | 25%~ | 30%~ |
やや多い | ~25% | 25%~ |
標準 | ~20% | ~25% |
少ない | ~10% | 15~20% |
スポーツトレーニングの基礎理論 横浜市スポーツ医科学センター=編(西東社)より
※体脂肪率は内臓脂肪だけでなく皮下脂肪も含む脂肪の量を反映している。生活習慣病のリスクを高める内臓脂肪の量のみを反映しているわけではないため、メタボリックシンドロームの診断基準には採用されてはいません。
※また家庭で用いる測定の機器の精度や測定の時間帯等によって誤差もあり、正確な測定は困難。一定の誤差はあることを理解しながら、あくまで目安として増減の傾向を把握してみてください。
F:参考として、市民ランナーのBMI(平均)は男性21.8、女性19.8。エリートランナーのBMI(平均)は男性18.7、女性17.6というデータがあります(※)。エリートランナー女子の17.6は低体重(やせすぎ)レベルで、一般の市民ランナーがこの数値の体重を目指して減量を行うと、エネルギー不足による体調不良等を招くリスクがあります。また、BMIは筋肉量と体脂肪の内訳が全く加味されていないため、体重が同じなら体脂肪率に関係なく同じ数値になることに注意が必要。体脂肪率も参考にしたいです。
――先ほど、「徐脂肪体重を減らさないことが大事」というお話がありましたが、体脂肪だけを減らすのは難しそうですね。
F:短期間で減らそうと考えると難しいです。もともとの体重にもよりますが、例えば60㎏の方が1カ月で5kg減などという急激なダイエットは筋肉量も減らしやすくなってしまうので、長い目で考えることが大事。体脂肪1kgは約7200kcalなので、1日240kcalずつ減らせば30日で体脂肪1kg減ることになりますよね。1日に運動で120kcal、食事で120kcalをマイナスするのはそれほど難しくはない。1カ月で500g減らすなら、1日に120kcalを減らす(※)生活が半年続いたら3㎏、1年で6㎏減るという計算になります。
(60㎏の人なら20分ゆっくり走ると消費エネルギーは約120kcal。毎日おやつでクッキーを食べているなら、3枚分で120kcal(1枚40kcalとして)になります)
食事を極端に制限したり、トレーニング量を一気に増やすとストレスに感じたり、長続きせず、それを止めたときにリバウンドしてしまいます。無理なく負担なくできるかを考えて、長期的に継続することで健康的なウエイトコントロールができます。
食事を制限するダイエットを始めると、一見体重は減るかもしれませんが、減った体重は体脂肪ではなく、水分や筋肉かもしれません。食事制限すると必要なエネルギーや栄養素が不足しやすく、体脂肪よりも筋肉が減りやすくなります。筋肉量が減ると代謝が落ち、より体重が減りづらくなってしまいます。さらに身体の内側からみなぎるエネルギーも減るので、辛い、苦しい、集中力が続かない、疲れが取れないなどと感じてしまいがちです。まずは食事をしっかりとること。その上で減らすべきところを減らす。あとは運動を組み合わせることでやせやすくなってきます。
――筋肉量を減らさないために、1カ月に何㎏までという基準はあるのですか?
F:推奨できるのは1カ月で体重の1~5%まで。それ以上の減量は身体への負担が大きく、リバウンドしやすいです。また、自分で期間を設定して、食事と運動で1日あたりどのくらいの収支バランスなら続けられるかの目安を算出するとよいでしょう。次回はできるだけ食事量を減らさない減量方法をお教えします。
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