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厚底カーボンシューズは誰でもはける。市民ランナーも速くなる!
※本記事は『ランナーズ2026年10月号』掲載内容になります。
「走りたい」気持ちを駆り立てる
変わり始めた厚底シューズの常識
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「マラソン2時間切り」を掲げて2017年にナイキが初めて発売した厚底カーボンシューズは近年、速いランナーだけの『特別な存在』ではなくなってきています。本特集では幅広いランナーに厚底カーボンを勧める識者や愛用するランナーを取り上げます。
文/岩谷隆志、三河賢文
写真/軍記ひろし
協力/スーパースポーツゼビオ東京御茶ノ水本店
70代や4時間台でも厚底カーボンシューズ着用中
「初めてはいた時の推進力に感動」
「推進力が全然違うので、初めてはいた時は『オーッ』と感動しました」
昨年3月の板橋Cityマラソンで4時間45分20秒と、7年ぶりにフルマラソンを完走した山本英治さん(60歳)。フル再挑戦にあたってはカーボンプレートを搭載した厚底レーシングシューズ(以下、厚底カーボン)を初めて購入した。かつてはフルマラソンを走るたびにひざを痛め、1週間ほど走れなくなる繰り返しだったという。
「厚底カーボンを使うようになってからはマラソン後の脚の痛みも少なくなりました。以前はフルに対してちょっと覚悟が必要でしたが、厚底カーボンをはいてからは『もっと走りたいな』と心理的なハードルが下がりました」(山本さん)
2024年に本誌が行ったアンケートでは、サブフォーランナーの72%がレースで厚底カーボンを使用すると回答した。24年度の全日本マラソンランキングでも、70歳以上で年代別1位だったランナーの複数名が厚底カーボンを愛用していた。スーパースポーツゼビオ東京御茶ノ水本店の小笠原槙治さん(41歳)も「フルマラソンで4時間を切ると厚底カーボンを買いたいというランナーが一気に多くなります」と話す。
今はサブスリーを目指している竹下裕真さん(42歳)は、自己ベストが3時間43分25秒だった2年前に厚底カーボンを購入した。「3時間半を切るなら厚底がいいと言われて買ったら、軽さにびっくりしました。意外とすんなりはけたので、興味のある人ははいてみればいいと思います。速く走れるだけでなく、クッション性が高いのもいい」とその魅力を語る。
ゆっくりランナーでも効率よく走れる
厚底カーボンはもともと「人類初のフルマラソン2時間切りプロジェクト」のためにナイキが開発したものだ。2017年の発売当初は「上級者向け」と言われたが、その認識は変わりつつあるのかもしれない。
8月のある日、都内で行われた「マラソン完走クラブ」の練習会を訪ねると、参加者約20人のうち半数が厚底カーボンをはいていた。年齢層は主に40代から60代。この日のメニューはキロ6分から7分での21km走で、参加者は会話をしながらランニングを楽しんでいた。
練習会を主宰する中田崇志さん(46歳)は「私は幅広いランナーに厚底カーボンをお勧めしています」と語る。
「厚底カーボンは普通のシューズよりも速く、長く走れるようになるので、『もっと走りたいな』というポジティブな思考になり、ランニングを習慣化できます。『脚が勝手に進むから楽しい』という声もよく聞きます。今は初心者でも使いやすい厚底カーボンも増えています。古くなったらジョギング用にすれば長持ちしますし、使わない手はないですね」
かつてはトップランナーに向けてつくられた厚底カーボンは、今では走力を問わず、多くの市民ランナーが選ぶシューズとなりつつあるのかもしれない。
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さまざまな厚底カーボンシューズが登場している |
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本誌調査ではサブフォーランナーの72%が厚底カーボンシューズを着用
厚底カーボン 72%
その他 28%
サブフォーランナーへのアンケート結果(有効回答数153人/2024年)
2024年度全日本マラソンランキング
70代以上の年代別1位ランナーも厚底カーボンシューズ!
72歳1位 | 3時間15分59秒 | 大石嘉昭さん | ヴェイパーフライ
75歳1位 | 3時間34分41秒 | 岩佐保男さん | マジックスピード
76歳1位 | 3時間26分17秒 | 外薗幸一さん | ヴェイパーフライ
84歳1位 | 4時間45分19秒 | 平田達雄さん | メタスピードスカイ
※1位ランナーへのアンケート回答より
2025年度女性最年長サブフォーランナーも愛用「今日はちょっと速く走れるかな」
3時間58分59秒 佐藤三奈子さん (72歳)
今ではレースだけでなく練習でも厚底カーボンシューズを愛用しています。厚底カーボンシューズをはき始めたキッカケは箱根駅伝でした。5~6年前、学生さんたちがみんな厚底シューズをはいていたので、「そんなにいいのかな」と思ったんです。当時は、速い人がはくシューズというイメージがありましたし、私のような年代でもはけるのかなという気持ちもありました。
「すごく反発する!」という感覚は、正直なところあったわけではありません。でも私は、反発というより、軽くてクッション性が高いところが一番気に入ったんです。「今日はちょっと速く走れるかな」という気持ちにもなれるし、それもランニングの楽しさの一つですよね。
今はメーカーを問わず自分に合うものをはいています。レース用に新しいものを使って、ソールが削れてきたら練習用に回すので、厚底カーボンだけでも10足くらいあります。見た目はまだきれいなので、なかなか捨てられなくて(笑)。去年走った距離で考えると、半分以上は厚底カーボンだったと思います。
厚底カーボンをはいたことでのケガはありません。「自分にはまだ早い」「速い人がはくものだから」と考えている方もいるかもしれませんが、一度試してみたらいいんじゃないかなと思います。
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現在は4~5足の厚底カーボンを使い分けている |
専門家解説
キロ6分40秒でもランニングエコノミーは改善する
ランニングシューズについて研究している小川慶図さんは「厚底カーボンシューズは市民ランナーにも十分メリットがある」と話します。
「自分は速くないから厚底カーボンシューズは必要ない」と考えている方も多いと思います。でも、私は速い・遅いはあまり関係ないと思っています。
海外では厚底カーボンによって時速9km(キロ6分40秒)程度でもランニングエコノミーが改善したという研究があります。トップ選手ほど効果は大きくないかもしれませんが「遅いランナーには意味がない」ということではありません。
厚底カーボンで変わったのはトップスピードではなく「燃費」です。同じペースでもエネルギー消費が少なくなり、最後まで余力を残しやすくなります。だからサブフォーなどを目指すランナーにも十分メリットがあります。記録だけではなく、「もっと楽に走りたい」という人にも価値はあります。
ただ、「速い人がはいているモデル」が必ず自分に合うとは限りません。シューズ選びに絶対の正解はないんです。だから私は「好きなシューズをはけばいい」という考え方です。高価なシューズだからこそ迷うと思いますが、基本的にシューズはランナーを後押ししてくれるものです。普段走っている距離が少し楽に走れたら、それだけでも気持ちいい。今まで出なかったスピードが自然に出たら、それも楽しい。軽快に前へ進む爽快感や、「今日は気持ちよく走れた」という成功体験は、ランニングを好きになるキッカケになります。一度試してみる価値は十分あると思います。
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- おがわ・けいと
1994年生まれ、千葉県出身。筑波大大学院でランニングシューズについて研究し、今年の春から愛媛県競技力向上対策本部・医科学測定員。今年3月のランニング学会では「厚底高性能スパイクの着用がランニングに及ぼす影響」という研究で完結型研究優秀発表賞を受賞。フルマラソンの自己ベストは2021年奈良の2時間40分29秒。
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