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スポーツ栄養
SPORTSカラダを目標達成への最短距離にスタンバイ。トレーニングに励むランナーは「アミノ酸」を有効活用すべし!(PART2 ~総括編~)
Question
「次のマラソンで自己ベスト更新!」を狙っています。これまで先生に教わったように、本番で最大限パフォーマンスを発揮すべく、栄養バランスのとれた食事や補食、サプリメントの活用に力を入れたいと思います!
Answer
食事や補食もレース準備の一部なのだと重視することで手ごたえが出るはず。筋肉のコンディション維持やリカバリーの他、パフォーマンスアップに役立つと考えられている各アミノ酸の持つ役割についても、もう一度おさらいしましょう!
回答者:深野祐子(管理栄養士・ランニングコーチ)
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――いよいよこの連載も最終回。先生の毎回のお話で、私のような迷えるランナー(「頑張っているつもりだけど成果が頭打ち…」「良いパフォーマンスを出したいのにどうしたらよいか分からず迷子…」)たちにとって、日ごろの栄養補給に意識を向けることがどれだけ大切だったか、意識を大きく変えていただきました!
深野先生(以下F):うれしいですね! せっかくレースに挑戦するなら、自分の本来持っているポテンシャルを最大限活かして臨みたいですよね。食事や補食などの栄養面からのアプローチで身体を仕上げていくのも大事な「レース準備」。何も意識せず本番を迎えるのとでは大きな差が出ます。今回は総集編としてまとめていきましょう!
栄養バランスのよい食事を3食しっかり摂る。不足しやすい栄養素やパフォーマンスを高めるための栄養素は補食やサプリメントを活用して「戦略的に摂る」
何より大事な基本は、3食のバランスのよい食事(主食・主菜・副菜・汁物+果物、牛乳・乳製品)と補食から、練習量に見合ったエネルギーや栄養素を摂取することです。
ランナーは何もしていない人と比べて、必要なエネルギー量や栄養素も増加します。エネルギー源となる糖質とあわせて、長時間/高強度のトレーニングなどではエネルギーとして利用されてしまう筋肉のタンパク質(アミノ酸)や、トレーニングによる筋肉のダメージからのリカバリーのために、たんぱく質やアミノ酸の必要量も増加しているのでしたよね!(もちろんビタミンやミネラルなどの必要量も増加します!)
走る動力源となる筋肉のコンディションを維持していくためには、毎食の食事で欠かさず肉や魚、卵、大豆・大豆食品、牛乳・乳製品などの良質なたんぱく質をしっかりと摂っていくことが基本ですが、運動のタイミングでは、“アミノ酸”も効果的に活用していくのがおすすめです。
食品から摂るたんぱく質は、アミノ酸に分解されて吸収されるまでに3~4時間程時間がかかります。一方、“アミノ酸”として摂れば消化の必要がなく、30分程度で吸収されます。とくに、ランニングなどの運動時…運動前や運動中、運動直後の補給には、消化に時間をかけず素早く吸収したほうが、効率よく取り入れることができます。
また、食品から栄養素をとるメリットは「さまざまな栄養素を摂ることができる」点。たとえば良質なたんぱく質源の「卵」は、たんぱく質(アミノ酸)の他に、ビタミンC以外のビタミン、ミネラルを含んでいます。
一方で、“アミノ酸”などのサプリメントは「食事では不足しがちな栄養素を補完する役割」と、パフォーマンスアップのために「特定の“栄養素”を戦略的に摂取していく役割」がある、と考えてください。
必要なタイミングで・摂取したい栄養素を・効率よく摂取できるのが“アミノ酸”の形で摂取するメリットと言えますね!
――吸収が速い、というのは長時間だったりハードにカラダを使う際、影響が大きそうですね!
F:「自分はサプリメントを日常から摂るほど普段走っていない」と思っている市民ランナーはとても多いですが、前回もお伝えしたようにフルマラソンなどのレースに向けて“1時間以上走る習慣がある”場合は『トレーニング』を行っていると心得て。もちろん大前提は基本の食事や補食から必要なエネルギーや栄養素を摂取していくことですが、運動のタイミングではサプリメントもうまく活用してみてください。
――レース本番だけ「慣れないけど特別にサプリメントを使ってみよう!」だと、本来のカラダのポテンシャルが活かしきれているとは言えず、もったいないですね。
F:日々のトレーニングからエネルギー源となる糖質とあわせて、筋肉のコンディション維持や素早いリカバリーなどに役立つ“アミノ酸”を必要なタイミングで上手に取り入れながら、質の高いトレーニングや長時間にわたる練習にも集中して取り組めるようにすること。この積み重ねが、最も力を発揮したい本番のレースで十分なパフォーマンスを発揮することにつながりますよ!
覚えておこう! ランナーが補給すべき4つのアミノ酸
~運動の前・中・後に摂取! ロイシンの量が豊富ならタンパク質の合成スピードがUP~
1.BCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)
筋肉中のタンパク質に含まれる必須アミノ酸の35~40%が「BCAA」。体内で合成することができず、食事などから摂取しなければならない必須アミノ酸で、強度が高い運動、長時間に及ぶ運動の際などエネルギーが不足した際、筋肉のタンパク質を分解してBCAAを取り出し、筋肉のエネルギー源として利用されてしまいます。
ランニング中に消費されやすいBCAAを運動前や運動中に補給すれば、ランニング中のエネルギー源として利用され、筋肉のタンパク質の分解やダメージを抑えながらより長く運動を継続できるようになることが期待できます。
さらにBCAAの中でも「ロイシン」は、筋肉の合成を促す、重要な“シグナル”の役割を担っている重要なアミノ酸。ダメージを受けて消耗した筋肉では、回復のためにタンパク質を新たに合成する必要があります。その材料となる必須アミノ酸の補給をしっかり補給することが重要になりますが、そのときに筋肉のタンパク質の合成スピードや合成する力に差をつけるのが、シグナルの役割である「ロイシン」の配合量が多いかどうか。
「ロイシン」の十分な摂取と必須アミノ酸の組み合わせ(BCAAをもちろん含む)が筋肉のタンパク質合成には重要と考えられています。サプリメントでBCAAを摂るなら、「ロイシン」や「BCAA」のみの単独摂取よりも、「ロイシン」の配合の割合が高い、かつBCAAと合わせて他の必須アミノ酸もバランスよく摂取するのがベストと言えるでしょう。
★BCAA摂取のタイミング
・運動前(30分前)の摂取
長時間のトレーニングや強度の高い運動時にエネルギー源として利用されやすい“BCAA”を運動前に摂取することで、筋肉の分解やダメージを抑えることが期待できる。また、ロイシン高配合の必須アミノ酸(BCAAも含む)を運動前に摂取した場合、運動後の筋肉のタンパク質合成のスピードや、筋肉のタンパク質を作る働きが強くなることがわかっています。
(※1時間以上にわたるトレーニングの場合は、さらに運動中にも〈1時間に1回を目安に〉摂取していくのがおすすめです)
・運動直後(30分以内)の摂取
ロイシン高配合の必須アミノ酸(BCAAの中でもロイシンが多く含まれたもの、かつ必須アミノ酸を含むもの)を摂取することで筋肉のダメージを軽減し、筋力の低下を抑え、回復を早めることが報告されています。
食事からたんぱく質を摂取すると吸収されるまでに3~4時間程かかるところを、アミノ酸であれば30分程で素早く吸収してくれます。運動前や運動後には、すばやく吸収される“アミノ酸”を上手に活用しましょう!
~ハードな運動時のストレスから体を守る! ミトコンドリアの働きを高めて脂質をエネルギー源に!~
2.シスチン
シスチンは非必須アミノ酸のシステインが2つくっついたもの。鶏肉などに多く含まれているアミノ酸で、体内で作られる抗酸化物質“グルタチオン”の材料となります。
強度の高い運動、または長時間に及ぶ運動時に大量に発生する“活性酸素”から、エネルギーを生み出す工場である『ミトコンドリア』の機能を守り、その質を高め、エネルギーを生み出す力を改善してくれます。
シスチンを摂取し、ミトコンドリアの働きを高めることで、脂質(体脂肪)を効率よくエネルギー源として利用することができるようになると、長時間の運動でも十分にパフォーマンスを発揮できるようになるはず。
また、ハードなトレーニングによって大量に生じる活性酸素による酸化ストレスは、胃や腸などの消化管のバリア機能を低下させてしまうことも。このシスチンを摂取することで、それを防ぐことが期待されています。
~免疫機能の強化や胃・腸などの粘膜の働きを守る! ハードなトレーニングで消耗されやすいからこそ摂取!~
3.グルタミン
グルタミンは非必須アミノ酸。筋肉に豊富に含まれており(約40%)、通常の食生活をしていれば不足することは少ないものの、ハードなトレーニングやケガ、風邪をひいている時など、身体にストレスがかかると大量に消耗して不足しやすいアミノ酸です。積極的に摂取するようにしましょう!
また、胃や腸など消化管の粘膜を守る働きや、免疫細胞を正常に働かせるためのエネルギー源でもあるので、不足すると筋肉のタンパク質分解を促進し、筋肉量の低下や回復の遅れにつながるほか、免疫機能の低下にもつながる可能性も。
※シスチンとグルタミンを摂取することで、消化管を守る機能(バリア機能)が運動により低下してしまうのを防ぎ、カラダ全体の炎症を抑える役割が期待できると言われています。
~持久力UPをサポートしてくれる!~
4.アラニン・プロリン
肝臓などで糖により変換されやすく、エネルギーとして利用されるアミノ酸(非必須アミノ酸)が「アラニン」と「プロリン」。これらは筋肉で「エネルギーを作り出すために利用・消費されるアミノ酸」。糖質と一緒に持久運動の前や運動中に補給すると、持久力の維持に役立つと考えられています。
筋肉など組織中のタンパク質・アミノ酸が激しく消耗されるのが、強度の高いトレーニングや、長時間に及ぶランニングのトレーニング。その消耗したエネルギーを補うために、筋肉のタンパク質を分解してアミノ酸を取り出し、身体にエネルギーを供給しています。
長時間の運動時は、その分解によって取り出された「アラニン」が血液中に移行。肝臓で糖に変換され、その糖はエネルギー源として筋肉に戻って利用されます。
同じく糖原性アミノ酸である「プロリン」も、長時間の持久運動に伴って徐々に減少していくことが確認されています。
持久的な運動をする際に糖として利用・消費されていく「アラニン」や「プロリン」を補給することは、身体のエネルギーの維持にとても重要。持久力の維持にも役立つことが期待されています。
また「アラニン」「プロリン」は、糖質と一緒に摂ると、急激な血糖値の上昇や低下を抑え、血糖値や肝臓のグリコーゲン量を維持してくれます。つまり、エネルギーを筋肉や脳に継続的に送り続けてくれるということ。サプリメントとして摂取することで、運動パフォーマンスを長く維持してくれることが期待されています。
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この連載では、食事やサプリメント活用、睡眠や生活リズムなど、「トレーニング」以外で私たちランナーがパフォーマンスUPのためにできる要素や習慣について、多くのことを教えていただきました。
深野先生、どうもありがとうございました!
(おわり)
【参考URL・参考書籍】
《アミノ酸スポーツ栄養科学ラボ》
・カラダの大半をつくっているアミノ酸と筋肉の関係とは?運動中に筋肉は減ってしまう!
⇒ https://sports-science.ajinomoto.co.jp/thm01_aminoacids-muscle/
・理想とするパフォーマンスを発揮するには筋肉を「早めに回復する」ことが大切。
では具体的に何をすればいいか?
⇒ https://sports-science.ajinomoto.co.jp/thm04_quick-recovery/
・『ロイシン高配合必須アミノ酸ミックス』は、運動の筋肉のコンディションをキープ!
運動後の疲労回復もサポート!
⇒ https://sports-science.ajinomoto.co.jp/knw0104_leucine-mix/
・スポーツ栄養学最新理論 寺田新編著 市村出版
・スポーツ栄養学ハンドブック ダン・ベナードット著 寺田新訳 東京大学出版会
・理論と実践 スポーツ栄養学 鈴木志保子著 日本文芸社
・筋肉の科学 石井直方著 ベースボール・マガジン社
・身体運動・健康科学ベーシック 東京大学身体運動科学研究室 東京大学出版会