イラスト/田川博之
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発売中のランナーズ6月号で「速くなるダイエット×15」を監修した研究者の髙山史徳さん(34歳)は、自身も今年2月の別府大分マラソンに向けて4kg減量に成功しました。しかし昨年出した自己ベスト(2時間46分)更新を狙った別大の結果は2時間51分。「痩せたけれど遅くなった原因は?」を髙山さんに自己分析してもらいました。
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編集部 心拍コスト(※1)とペース戦略との関係についても教えていただけますか。
髙山 はい。今年のレースでは、序盤から心拍数が高い上、後半にかけてさらに上昇していく心拍数の推移が見られました。これは「心拍ドリフト」と呼ばれる現象で、ペースが一定なのに心拍数だけが徐々に上がっていく状態のことを指します。一方、昨年のレースでは、少なくとも前半はペースと心拍数のバランスが取れており、心拍コストも安定していました。
実は私自身、つい最近発表した研究論文(※2)の中で、心拍コストがマラソンのパフォーマンス評価に有用であることを紹介しました。特に、レース中の心拍コストの変化をモニタリングすることで、近年注目されているパフォーマンス要因「Durability」(耐久性)の把握に役立つことを示しています。これまでの数多くの研究結果から、2時間30分を超えるレベルの一般ランナーでは、少なくとも約25kmまでは、心拍ドリフトを避けて走行することが好記録に繋がることが分かっています。
編集部 今回の取り組みから得られた学びはありますか?
髙山 「痩せる」という1つのアプローチを通して、マラソンの奥深さを実感しました。体重を落とすことでパフォーマンスが向上する可能性がある一方で、多くの要因がマラソンのタイムに影響するので、大人数を対象とした臨床研究のような形は別としても、個人の取り組みでは、何かのアプローチを取り入れても、それ自体の影響を見ることは難しいのです。
でも逆に言えば、たった1つの要素を動かすだけで、他の要素が見えてくるのが、マラソンの面白さでもあります。今回の経験では、「痩せる」というアプローチを通して、パフォーマンスという全体を考え直すきっかけになりました。また、今回はレースが近づいてからのタイミングでダイエットに励みましたが、来シーズンは、レースに向けたトレーニングが本格化する前の段階から減量を進めておく方向で取り組んでみたいと考えています。出来るかはまた別の問題ですが…。さらに、来シーズンは自分にとってのハイパーレスポンダーのシューズを見つける努力も日頃からしようと思っています。
編集部 最後に、読者へのメッセージをお願いします。
髙山 「長々と言い訳するな」と思われても全然かまいません。むしろ、そう思っていただけたのであれば、数ある要因を振り返えられた証拠なので、ありがたい限りです。
その上で、「マラソンって、奥が深いんだなと」と感じていただければより良いなと。最近は、パフォーマンスや体調を数値で見られる時代になりましたが、レースの心拍を比べたり、調子の良かった日の数値を見返したりするだけでも、マラソンとの向き合い方が変わってくるかもしれません。
また、「この冬は頑張ったつもりだったけど、走行距離は増えても、強度は落ちていた」など、感覚と現実のズレを数値で可視化するだけでも、新しい発見につながります。トレーニングやウェアやシューズなどの装備、体調などを多面的に捉えながら走ることが、結果だけでなく、走るプロセスそのものを豊かにしてくれると思います。今回の特集や記事が、そのきっかけになったなら、研究と実践、両方に携わる立場として、これ以上うれしいことはありません。
※1 あるスピードに対する心拍数の比率を表すパフォーマンス指標で、「心拍数÷時速」で算出される。数値が低いほど少ない心拍で走れていることを意味する。
※2 Takayama, F., & Aoyagi, A. (2025). Do heart rates of elite marathon runners exhibit room for drift? Implications for durability. Frontiers in Sports and Active Living, 7, 1571498.
https://doi.org/10.3389/fspor.2025.1571498
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