スポーツ栄養
SPORTSQuestion
涼しくなってきたので、走り込みやインターバル練習を取り入れていこうと意気込んでいます。でも、夏の疲れが残っているのか、なんだかだるいような、体調がイマイチです。何か原因があるのでしょうか?
Answer
長時間のランニングやハードなトレーニングは、腸などの内臓にもダメージを与えます。食事とともにアミノ酸、シスチンやグルタミンをうまく補給してケアしていきましょう!
回答者:深野祐子(管理栄養士・ランニングコーチ)
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深野先生(以下F):前回(PART2)では、お腹(腸)にかかるダメージへの対策として注目したい栄養素「グルタミン」についてお話ししました。今回はもうひとつの重要な栄養素である「シスチン」についてお話ししましょう。
――こちらもグルタミンのような働きをする栄養素ですか?
F:こちらは「システイン」というアミノ酸が2つくっついた形になっているのですが、抗炎症作用をもつ「グルタチオン」という物質の供給源となり、酸化ストレスから腸を守る働きをしてくれます。つまり、シスチンとグルタミンを摂取することで、運動による消化器官守る機能(バリア機能)が低下してしまうのを防ぎし、体全体の炎症を抑える役割が期待できると言われているんです。こちらも肉や魚、卵、大豆製品などのたんぱく質を多く含む食べ物に含まれています。(シスチンは特に、鶏肉などに多く含まれています。)
ハードなトレーニング時、長時間のトレーニング時には摂取の工夫を!
―――食事は主食・主菜・副菜・汁物(+果物、牛乳・乳製品)でバランスよく摂取、ですね! そして、シスチンとグルタミンの含まれたたんぱく質をたっぷりと……。
F:はい! 最も重要なのは、練習量に応じてエネルギーや栄養素を不足のないように十分に摂取すること。適切なエネルギーや栄養素の摂取でランニングで生じる炎症を抑えることができるのでは、という報告もあります。
※「日本人の食事摂取基準(2020)」を参考にすると30~49歳の男性/女性の場合、運動習慣がある場合、男性で3,050kcal、女性で2,350kcalが1日に必要なエネルギー量が目安となります。
参考:スタミナ、持久力アップに必要な栄養素とは?(PART3)
⇒ https://runnet.jp/topics/sports/210421.html
基本的には主食・主菜・副菜・汁もの(+果物、牛乳・乳製品)をバランスよく摂取していくことが重要ですが、特にたんぱく質源となる肉や魚、卵、大豆製品、牛乳・乳製品は毎食の食事から十分にとりましょう。シスチンやグルタミンの摂取にもつながります。
また、炎症を抑える上では腸内環境を整えることも重要で、食物繊維(白米を麦飯や胚芽米、発芽米に替える(代える?)、パンを胚芽パンやライムギパンなどに替える(代える?)、他にわかめやめかぶ、もずくの小鉢を副菜として添える、といった工夫でも、食物繊維の摂取量を増やすことができます!)や発酵食品(味噌や納豆、キムチ、ヨーグルトなど)を摂取すること。
他にも、炎症反応や酸化ストレスを抑えるビタミンA,C,Eといった抗酸化作用のある栄養素が豊富な野菜や果物等も積極的に摂取しましょう。1回の摂取で体に利用される量には限りがありますし、腸のバリア機能を保つためにも、毎回の食事や補食で摂取することが大事です。
(トレーニングやレース前後の食事、素早く消化吸収を行いたい場合、胃腸の調子がよくないとき、また腹部の膨満感や下痢を起こしやすいといった体質の方は食物繊維の多い食事を控えたほうがよいこともあります。ただそういった状況や体質でなければ『腸内環境を整える』という意味で、普段の食事では食物繊維や発酵食品を日頃の食生活で意識的に摂取していきましょう)
――ハードなトレーニングや長時間のトレーニングを行う場合は、補給するにあたってどういった工夫したらいいですか?
F:トレーニングの3~4時間前に食事を摂ります。3~4時間前に食事をとるのが難しい場合や、食事だけでは摂取しきれない場合は1~2時間前に消化の良い炭水化物やたんぱく質の補食を(塩おにぎりと牛乳、蒸しパンと豆乳など)。そして30分前に、エネルギーゼリーなどの糖質とシスチン・グルタミンの含まれたサプリメントを摂取するのがおすすめです。
さらに、運動の直後から30分後を目安にロイシンが高配合された必須アミノ酸を摂取し、体の回復を促しましょう。さらにシスチン・グルタミンの含まれたサプリメントを摂取することでトレーニングによる腸のバリア機能の低下を防ぐことが期待されます。
それから、トレーニング中の水分補給も、腸のダメージ対策には重要です。特に暑い・湿度が高い中ハードなトレーニングを行う場合は、深部体温の過度な上昇を抑えることで、熱ストレスから腸を守ることにつながるんですよ!
《水分補給のポイント》
・運動の20~40分前に、スポーツドリンク(5~15℃ほどのもの)を250~500ml
・運動中はスポーツドリンク(5~15℃ほどのもの)を
1時間に500~1000mlを目安に/ 15~20分に1回程度こまめに摂取
・運動後は体重が減少した分を取り戻す程度、またはその2割程度多い量を目安に摂取
※参考:夏の走り込みを成功させる水分補給法は?
⇒ https://runnet.jp/topics/sports/210719.html
腸のダメージを抑えるためには、普段の食事や、トレーニング前~後の栄養補給・水分補給が重要なんです!
――食事で補いきれないシスチンとグルタミンは、サプリメントで補給することもできるのですね。ハードなトレーニングの日、長距離走の日の習慣にしたいと思います。今回はお腹の不調の関係、そして解決法がよくわかりました。ありがとうございました!
(おわり)
⇒ PART1はこちら
⇒ PART2はこちら
《参考文献・サイト》
▶アミノ酸スポーツ科学ラボ
・Amino Acids. 2021 May 15. doi: 10.1007/s00726-021-03001-y.
Cystine reduces tight junction permeability and intestinal inflammation induced by oxidative stress in Caco‑2 cells
・『シスチン・グルタミンミックス』は運動するときの疲れを防いでくれる!
⇒ https://sports-science.ajinomoto.co.jp/knw02_glutamine-mix/
・運動すると疲れるのはカラダ全体にダメージが起こり、お腹にもダメージを受けるから?
理想的なパフォーマンスを発揮のために知っておくべきこと!
⇒ https://sports-science.ajinomoto.co.jp/thm02_stomach-damage/
▶スポーツ栄養学最新理論 2020年度版 寺田新 編著(市村出版)
▶Association of Daily Dietary Intake and Inflammation Induced by Marathon Race
(Mediators Inflamm. 2019 Oct 7;2019:1537274)