2025年6月Dead Cow Gullyにて。ペースの引き出しが増えたことで楽しむ余裕が生まれた(写真/野田倖史郎KoshiroNoda)
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「1時間で6.7km走る」ことを身体の限界まで繰り返す、バックヤードウルトラという競技をご存知でしょうか。近年国内外ウルトラランナーの間で人気が高まりつつあります。この競技に魅せられて脱サラ、大会に参加するだけでなく自身でも大会を企画、さらには普及活動も行っている水野倫太郎さんがその魅力について綴る連載です。
2023年11月、初めてのバックヤードウルトラから翌2024年10月まで取り組んだ「やめたくなった時にやめない練習」。自己最長距離への挑戦、真夏のオーバーナイトランや土砂降りの中のバックヤード練といったメンタル強化に取り組んだ末にバックヤードウルトラ国別対抗戦で直面したのは「速く走り過ぎた代償」でした。そこから「ゆっくり走る」「歩く」という選択肢に真剣に取り組むようになりました。
2024年10月の国別対抗戦。私は毎回の6.7kmを30分台で走り、休憩時間を稼ぐ作戦を敢行しました。しかし、ループを終えて、自分のテントに戻ってくると全身から吹き出す汗、おさまらない火照り、そして蓄積される"痛み"。休憩時間の長さの恩恵よりも、速く走り過ぎた代償を突きつけられました。痛みに耐えながら走り、意識が朦朧とするような場面も途中何度もありました。結果として、目標には遠く及ばず終了。
悔しさと共に、頭に浮かんで来たのは「歩けばよくない?」という考え方でした。
2023年11月は、メンタルで負けた。2024年10月は、速く走りすぎたことによるダメージに負けた。ウルトラ“ランニング”と捉えると、どうしても「走らなきゃいけない」という気持ちにさせられますが、バックヤードウルトラは、1時間以内に6.7kmを“進めばいい”。休憩時間を考えなければ、平均すると1kmあたり8分57秒ペース。早歩きでも対応可能です。1km4分台で走って、身体に熱を溜め、筋肉や内臓に痛みを生じさせながら走る必要などないのです。
いかに心身を楽な状態にキープするか。求められるのはそのためのマネジメント能力かもしれない。そう気づいたときに、練習に取り入れる内容や意図が変わりました。
「1㎞8~9分ペースで歩く練習」「1km7~8分ペースでゆっくり走る練習」を取り入れるようになりました。目指したのは、ペース感覚の引き出しを増やし、複数のペース、ときに歩きを組み合わせて、1時間に6.7kmをおおよそ50分~55分でまとめるイメージでした。
実際にやってみると、ペース毎に負荷のかかる身体の部位が異なるので疲労を分散させられること、体温が上がらず発汗による不快感や火照りを治める時間を抑えられること、動きながらの給水やエネルギー補給がしやすくなり胃腸の調子も保ちやすいこと、いくつものメリットを実感しました。
とはいえ、そもそも「速く走れば走るほどいい」が当たり前だった中で、最初は、そもそも「スムーズに早歩きができない」「ゆっくり走れない」という課題もありました。地道な練習を通して、身体の使い方から力の出し具合、気持ちの保ち方等を、身に着けていきました。
固定観念をとりはらうこと、心と頭をより柔軟にすること、試行錯誤を繰り返すこと。2024年10月以降、1時間に6.7kmを“進む”、そしてそれを繰り返すというバックヤードウルトラの本質により向き合えるようになった気がします。「バックヤード面白いな」という気持ちも増していきました(笑)
歩きも含めたペースの引き出しが増え、身体への負荷が減ったことが、2025年6月、オーストラリアでの大幅な自己ベスト更新、94LAP、約630kmにつながりました。そして、手にしたアメリカでの世界選手権の出場権。海外バックヤード転戦。さらなる経験が、さらなる探求を生みます。次回は、2026年現在の取り組みを紹介していきます。
2025年6月Dead Cow Gullyにて。ペースの引き出しが増えたことで楽しむ余裕が生まれた(写真/野田倖史郎KoshiroNoda)
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<プロフィール>
みずの・みちたろう
プロウルトラランナー。1995年生まれ。神奈川県秦野市在住。バックヤードウルトラを主戦場に、2024年、2025年、日本代表として世界選手権に出場。自己ベストは 94LAP/約630km。
活動の軸は、走ること・伝えること・つくること。『走るはつなぐ』『共走』をテーマに、「丹沢ループス」「バックヤードウルトラ神奈川大会」等のイベント企画やバックヤードウルトラのドキュメンタリー上映会・ポッドキャスト配信にも精力的に取り組む。2026年は海外バックヤードを転戦中。
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