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【連載:バックヤードウルトラ⑦】異国の地で食べ物に苦戦。失意の先で残ったもの(世界のバックヤードウルトラを走る ― ポーランド後編)

2026年5月01日
2026年3月Backyard Ultra Warmia(ポーランド)、氷点下の中走る_Sportowa Migawka (Joanna Litwiniuk)
2026年3月Backyard Ultra Warmia(ポーランド)、氷点下の中走る_Sportowa Migawka (Joanna Litwiniuk)

「1時間で6.7km走る」ことを身体の限界まで繰り返す、バックヤードウルトラという競技をご存知でしょうか。近年国内外ウルトラランナーの間で人気が高まりつつあります。この競技に魅せられて脱サラ、大会に参加するだけでなく自身でも大会を企画、さらには普及活動も行っている水野倫太郎さんがその魅力について綴る連載です。


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2025年10月にアメリカで開催された世界選手権から約半年後。導かれるように降り立ったポーランドのバックヤードウルトラ。前編に引き続き、異国の地での挑戦と共走の行方をお届けします。

2026年3月。世界選手権で共に走ったポーランド代表のPaweł(パヴェウ)と、Olsztyn(オルシュティン)の街で再会を果たしたのはレース前々日の3月18日。
熱い抱擁を交わしたのち、今回の滞在先であるPawełのご自宅へ。お転婆ざかりの2人の娘さんと奥様との暮らしに約10日間お邪魔することになりました。
荷物を置くと、レース本番の試走へ。湖のほとりの森の中を抜けるコース。美しい夕暮れどき。6.7㎞を走り終え、スタート地点に戻ってくると、茂みで斧を振るう人物が。今回の遠征のきっかけをつくってくれたGrzegorz Baran(グジェゴシュ・バラン)でした。Backyard Ultra Warmia(ヴァルミア)のレースディレクターである彼とも熱い抱擁、そして固い握手を交わしました。「本当に、ポーランドのバックヤードに来たんだ」、そう実感が湧きました。
Pawełの自宅に戻り、ご家族と対面。夕食を共にし、早めの就寝。

翌3月19日は、レース前日のテント設営のため会場へ。昨年の世界選手権でも会ったカメラマンのAneta(アニタ)や選手のTomek(トメク)らとも再会。今回、Pawełと共に、私のサポートクルーをしてくれるZbyszek(ズビシェク)とJarek(ヤレク)とも対面しました。
夜、レースを目前に控える中、何気なくFacebookを眺めているとPawełの投稿が流れてきました。そこには、彼が今回、ホストファミリーから機材提供、サポートクルーまで、フルバックアップを申し出てくれた理由が綴られていました。
「世界選手権の苦しい場面で、寄り添い、手助けをしてくれたMichi。今度は、私が彼を助ける番だ。」彼の想いに応えたい。そんな気持ちで眠りにつきました。

そして迎えたレース当日。約70名の選手、そのサポートクルーを含めた大勢のギャラリーが集結。3月20日8:00、レースの幕が切られました。
覚えたてのポーランド語のあいさつ「Dzień dobry(ジェンドブリ)」と拙い英語を駆使し、ポーランドのランナーたちと言葉を交わしながら、レースは進みます。
最高気温は10℃、最低気温はマイナス1℃。日本の春とは違う、冷たい空気が身体を包みます。

ここで私は致命的な失敗を犯しました。寒さにより喉の渇きを感じにくく、水分補給が不足。さらに、スープや硬めのパンといった日頃食べ慣れない補給食にも苦戦。レース開始から20時間が経過したあたりには、お腹を下し、トイレに駆け込むことに……。
胃腸に、これまでのレースではなかった違和感を覚えながら、やがて、身体にエネルギーが行き渡らない感覚に陥りました。

「とにかく何か食べなければ」差し出された菓子パンや持参していたエネルギージェルを無理やり押し込むものの、違和感は増すばかり。レース開始から30時間近く、2日目の日中にさしかかる頃には、腹部に鋭い痛みを伴うようになりました。
Pawełらサポートクルーの懸命の後押しを受けるも、最終的には、走ることができなくなり、完全に歩きへ。2ラップはなんとか持ち堪えるも、38ラップ目でタイムアップ。残るランナーは7名というタイミングでの脱落でした。

思い描いたものとは程遠い幕切れ。
38ラップ目のスタートから1時間が経過しても、会場に戻らない私をPawełたちが迎えにきてくれました。
彼らの惜しみない愛情と献身、Pawełの想いに応えることができなかった。「自分は胃腸が強いから大丈夫」その過信と準備不足が招いた結果でした。
想定よりも1日以上早くレースを終え、落ち込む私に元気をくれたのも、ポーランドの仲間たちでした。
PawełはOlsztynやGdańsk(グダンスク)の街に連れ出してくれたり、Grzegorzもレースを終えて程なくして自宅に招いてくれました。
「ポーランドに来てよかった」ほろ苦い結果とは裏腹に、心に残ったのはその思いでした。
「走るはつなぐ」ポーランドの友人たちと味わうことができた物語。この物語はきっと続いていく。彼らとの再会もきっと遠くはない。そんな予感と共に帰国の途につきました。


2026年3月Backyard Ultra Warmia(ポーランド)、Pawełらサポートクルーと共にレースを終えた_Sportowa Migawka (Joanna Litwiniuk)
2026年3月Backyard Ultra Warmia(ポーランド)、Pawełらサポートクルーと共にレースを終えた_Sportowa Migawka (Joanna Litwiniuk)

<プロフィール>
みずの・みちたろう
プロウルトラランナー。1995年生まれ。神奈川県秦野市在住。バックヤードウルトラを主戦場に、2024年、2025年、日本代表として世界選手権に出場。自己ベストは 94LAP/約630km。
活動の軸は、走ること・伝えること・つくること。『走るはつなぐ』『共走』をテーマに、「丹沢ループス」「バックヤードウルトラ神奈川大会」等のイベント企画やバックヤードウルトラのドキュメンタリー上映会・ポッドキャスト配信にも精力的に取り組む。2026年は海外バックヤードを転戦予定。



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