2025年2月BULSS神奈川大会 スタートラインに喜びが満ちている(写真/石山 匠 Takumi Ishiyama)
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「1時間で6.7km走る」ことを身体の限界まで繰り返す、バックヤードウルトラという競技をご存知でしょうか。近年国内外ウルトラランナーの間で人気が高まりつつあります。この競技に魅せられて脱サラ、大会に参加するだけでなく自身でも大会を企画、さらには普及活動も行っている水野倫太郎さんがその魅力について綴る連載です。
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「毎時間6.7kmを走る」「最後の1人になるまで続く」。バックヤードウルトラをノックアウト形式のランニングと表現することがあります。選手が一人ずつ脱落していき、最後の一人を決める勝負。拳を交わさずとも、走ることでの殴り合い。そんな印象さえ抱くかもしれません。
実際はどうか?選手、サポートクルー、運営、応援者。バックヤードウルトラの現場に脚を踏み入れたことがある人々は、不思議と「あたたかい、やさしい雰囲気」と口にするのです。
バックヤードウルトラのことを言葉だけで表現するのは難しさがあります。ただ、その世界観を簡潔にお伝えするならば、某少年マンガ週刊誌のスローガン「友情、努力、勝利」がイメージしやすいでしょう。選手はそれぞれの想いをもって、バックヤードウルトラのスタートラインに立ちます。最後の1人を目指す人、自己最長距離を目指す人、とにかく未知の挑戦を楽しみたい人。それぞれが物語の主人公です。
最初は、多くの選手がその途方もない挑戦を前に、肩に力が入り、戦闘モード。スタートの合図で勢いよく飛び出します。1周、2周、3周と、周回を重ねるごとに、徐々に落ち着きを取り戻し、「これが競い合いではない」と気づきます。速く走っても、次の00分までスタートを切れない。決められたゴールがない中で、ずっと張りつめていては持たない。何より時間はたっぷりある。選手同士の距離が近づき、会話をしながらの共走がはじまる。さながらグループランニングのような光景。たとえペースは合わずとも、同じコース上で共に挑み続けている存在を感じること。励まし合い、支え合い、高め合う"友情”が、前に進み続ける原動力になります。
レースが展開していく中で、選手はそれぞれの困難に直面することになります。脚は痛み、力が入らなくなる。食べ物や飲み物が受け付けなくなる。猛烈な睡魔に襲われる。心が折れそうになる。それでも「もう一周」「もう一歩」と挑み続ける。限界まで"努力”する姿勢が問われます。
そして、それぞれの挑戦の終わりを迎え、選手たちは"勝利”を手にします。レースの勝者ではなくとも、それぞれが己の限界の一歩先へ挑んだこと。それぞれの"勝利”の手ごたえが、次なる挑戦に駆り立てます。
バックヤードウルトラの会場に、蹴落とし合うようなギスギス感はないです。限界に挑む選手たちが醸し出す緊張感はあります。でも、そこに敵はいません。いるとすれば、自分の限界を決めようとする自分自身。そこにいる人々は、共に走る仲間。限界に挑む場だからこそ、お互いへの思いやり、笑顔が自然とあふれています。
私自身、昨年出場した大会では、眠気に苦しみ、何度もコース脇に倒れこむように横たわりましたが、共に走る仲間たちが「ミチタロウ、起きろ!立ち上がれ」と何度も声をかけてくれました。逆に、私も、眠気に襲われている選手に「手を出してください」と言って、ぐりぐりと握手をして、目を覚まさせたり。苦しい場面で、笑い合い、共に走ったことが印象に残っています。
はじめは「自分との戦い」のつもりだったのに、バックヤードウルトラを走れば走るほど実感することは「一人じゃできないし、一人じゃない」ということ。それぞれの挑戦を共にしているからこそ生まれる「あたたかさ」「やさしさ」がランナーたちの背中を押し、もう一歩を踏み出させます。
「私たちはどこまでいけるのか?」バックヤードウルトラは、そんなテーマと共に、ランナー、そしてサポートクルーや運営、応援者までもやさしくつなぎます。
レース中、手を握り目を覚まさせることも(写真/野田倖史郎 Koshiro Noda)
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<プロフィール>
みずの・みちたろう
プロウルトラランナー。1995年生まれ。神奈川県秦野市在住。バックヤードウルトラを主戦場に、2024年、2025年、日本代表として世界選手権に出場。自己ベストは 94LAP/約630km。
活動の軸は、走ること・伝えること・つくること。『走るはつなぐ』『共走』をテーマに、「丹沢ループス」「バックヤードウルトラ神奈川大会」等のイベント企画やバックヤードウルトラのドキュメンタリー上映会・ポッドキャスト配信にも精力的に取り組む。2026年は海外バックヤードを転戦予定。
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