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ロンドンで人類初の2時間切りが誕生!「驚異的ペースアップの裏側」③

2026年5月01日

セバスチャン・サウェはマラソン4戦4勝の絶対王者
農家を営む3児の父 週240㎞を走り込む

写真/ロイター/アフロ
写真/ロイター/アフロ

1時間59分30秒の世界新記録を樹立したケニアのセバスチャン・サウェ選手はトラックでの実績は皆無。これまでどんな競技生活を送ってきたのか。海外のランニング事情に詳しい、ライターの河原井司さんが綴った。

20代後半まで無名だった

今回のレース後にアディダスが公開したドキュメンタリー映像やRunner's Worldなどによると、1995年生まれのセバスチャン・サウェは、エリウド・キプチョゲと同じケニアのナンディ族。トウモロコシ農家の家庭で育ち、23歳の時に陸上の聖地イテンに移住したが、20代半ばまでに目立った実績は無く、結婚や故障を経てコロナ禍に人生の岐路に立っていた。
そんな矢先、叔父の推薦でカプサベトにある「2 Running Club」への加入を決意。ヘッドコーチのクラウディオ・ベラルデリは、実績が無いサウェの才能を当時から見抜いていた。ベラルデリはケニア在住のイタリア人コーチで、ロンドンマラソン3勝のマーティン・レルや北京五輪マラソン覇者のサムエル・ワンジルも指導した名指導者だ。
ベラルデリはサウェを手塩にかけて、故障からの治癒など焦らずじっくりと育成した。トラックの実績は無いサウェだが、2023年にケニアクロカン選手権や、世界ロード選手権のハーフマラソンで優勝。マラソンデビューまでにハーフで58分台を5回記録するなど、ロードでの安定感が光った。
初マラソンは29歳で迎えた24年バレンシア(スペイン)。2時間2分5秒の初マラソン世界歴代2位(当時)で優勝した。
2戦目のロンドンは勝負所で5㎞13分台のラップを刻みワールドマラソンメジャーズ初優勝。3戦目のベルリンは気温20℃以上ながら2時間2分16秒で、2位に3分59秒の大差をつけて圧勝。そして今回、ロンドン2連覇を目標にマラソン4戦目に挑んだ。


模範的アスリートを目指す

サウェのスパートは、早送り映像のように素早い。今回のロンドンでは30~40㎞を27分36秒でカバーし、ラスト2.195㎞は5分51秒(キロ2分40秒平均)。前半60分29秒、後半59分01秒のネガティブスプリットでサブ2を達成し、世界中に「最強のマラソン選手」という印象を与えた。
このレースに向けては週間走行距離200㎞をベースに最大で週240㎞をこなし、ロングランではラストスパートに磨きをかけたという。サウェは現在、農家を営む3児の父でもあるが、普段は門限がある2 Running Clubで暮らす。その生活はシンプルで、自宅には月に数回しか帰宅しないそうだ。
ケニアは計140名のドーピング陽性者を出しているが、サウェの陣営はスポンサー負担で自主的に血液検査を実施。ベルリンやロンドン前には週に2回のペースで検査を行って「クリーンな選手」という姿勢を見せるなど、模範的なアスリートを目指している。

ジェル8~9個分のエネルギーを摂取

今回のレースでは最新技術も活用された。サウェ選手が着用したシューズはアディダスの新モデル「ADIZERO ADIOS PRO EVO 3」で、重量はわずか97g(27㎝の場合)。また、Maurtenの発表によると、サウェ選手はレース中に高糖質ドリンクを中心に230gの糖質を摂取。これはエナジージェルに換算すると8~9個という計算になる。


サウェの指導者が伝える『Trust me(私を信じろ)』

人類初の2時間切りが誕生サウェ選手を育てたクラウディオ・ベラルデリコーチ(イタリア)について、2013年と14年に計3カ月間ケニアで直接指導を受けた市民ランナーの秋山太陽さんに語ってもらった。

「当時はケニアのトレーニングキャンプでクラウディオの指導を受けました。その内容には、3つのポイントがあったと思います。1つは選手を信じること。彼は故障中であったり芽が出ないランナーであっても焦らずに、走れるようになるまで待っていてくれます。同時に自身やトレーニングメニューへの信頼も求めており『Trust me(私を信じろ)』と言われました。
2つ目は結果を急がせないこと。調子が良さそうな時に限って『今日はもう終わり』と練習を途中で中断させることがありました。
3つ目は選手の持ち味にプラスすること。当時、私は毎週50㎞走をしていたのですが、それを聞いた彼は『それなら身体はできているな。これからペースの速い練習を増やしたらすぐに2時間10分が切れるよ』と言ってくれました。どうしても2部練習ができないランナーには、『じゃあ1日1回集中して走ってくれ』と話すなど、自分の考えを強制するのではなく、個々に合わせた提案をしてくれます。
非常に謙虚で、自分は表に出たがらず『目立つのは選手』という考えを持っています。2024年のボストンマラソンで10年ぶりに会った時も、私のことを覚えていてくれました。これまでも世界最高のコーチと言われていましたが、今回人類初の2時間切りを支えたことで名実共に『世界一』を証明したと思います」






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