今でも思い出すのが、大学4年で初めて出場した01年関東インカレ1部の3000m障害です。最終学年のため、一度限りのチャンス。入賞したら、一生誇れる結果になるので、「今日は何があっても絶対に心を折らない」と決意してスタートしました。苦しい場面でも、「一生に一度のチャンス」と自分に繰り返し言い聞かせて、4位でフィニッシュしました。
私は、同じ走力のランナーでも、自分の心をどれだけプラスに働かせるかでタイムや順位が変わると思っています。レースのきつい場面ではネガティブ思考になりやすく、ついついペースを落としてしまいがちです。「頑張る理由」をレース前に準備しておくことで、苦しいときでも心がマイナス方向にいくのを抑え、失速を最小限にすることができます。現在は、レース後に運営するクラブ向けのメールマガジンで結果報告しています。レースの終盤できつく苦しくなったときでも「目標達成の記事を書きたい!」と思うと力が湧いて踏ん張れます。
他にも、タイム目標を周囲に宣言する、あえて遠出するレースに出場して「せっかくお金をかけて遠くまで来たのだから、下手な走りはできない」と自分が頑張る理由をつくるなど、苦しい場面でも妥協できない環境に身を置くこともお勧めです。
「一生に一度のチャンス」の決意で関東インカレ入賞
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なかた・たかし(46歳)
マラソン完走クラブ主宰。伴走者としてパラリンピックに複数回出場。
04年アテネで金(マラソン)、12年ロンドンで銅メダル(5000m)。
認知症予防脳トレ士という資格を持っており、平日は主に福祉施設で音楽療法や体操の講師をしています。 そこでは利用者の方がゲームや音楽に夢中になった時、普段以上の動きができることがあります。「 頑張らなければ」というストレスではなく、集中とリラックス、そして楽しさが共存している状態だと、脳のリミッターがはずれるのではないかと考えています。
私自身も「脳のリミッターをはずせた」と感じた経験があります。社会人になって5000mで15分40秒の自己ベストを出したレースです。 中高時代の恩師が審判をしていて、「先生の前でいい走りをしたい」というワクワクした気持ちがありました。その日はラスト300mまでほとんど疲れを感じませんでした。風景が消えて、自分の走る道だけが見えているような感覚でした。あれが脳のリミッターがはずれた状態だったのだと思います。
また、私が脳へのもう一つのスイッチだと考えているのが「音」です。
認知症の方でも若い頃に歌った曲が流れると、歌詞を自然に口ずさむことがあります。箱根駅伝でも、応援や監督の言葉で力が湧いてくることがあります。 好きな音楽や声援などで自分をワクワクさせられると、もうひと頑張りする力が引き出されるのかもしれません。
恩師が審判のワクワクで風景が消えるほど集中
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えむ・たかし(41歳)
ものまねアスリート芸人。駒澤大時代は駅伝チームでマネージャーを務める。
フルの自己ベストは2時間39分18秒。
東洋大学の2年生のときに、出場した1万mで、気がついたら8000m地点にいました。スタート後、ずっとトラックの白線をみて走っていて、頭の中では「きつくない、きつくない」と繰り返し唱えていました。身体がきつくなると力みが生まれ、ブレーキをかけてしまうので、あえて意識をぼかすようにしていたんです。
このレースでは自己ベスト(30分4秒)が出て、いまもこの記録が生涯ベストです。このような自分の走りに没頭する集中した状態が作れると、身体を無理に動かさなくてもフォームが最適化されて脚が自然と前に進みます。
市民ランナーの方には、練習で「ここに視線を集めたら集中できた」という自分なりのポイントを探してみるのをお勧めします。一人で走るときと集団で走るときとでは、走る感覚が異なることも少なくありませんし、集団では、前のランナーの腰や足元に注目することで集中できるという人もいるなど、集中の仕方は人それぞれです。ぜひご自身に合った方法を試してみてください。
また、勝負レースの前に練習会へ参加するのもお勧めです。仲間と「頑張ろう」と声をかけ合うだけで気持ちがポジティブになるので、レースへの不安が解消されますよ。
トラックの白線を凝視した大学時代のベストレース
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いのせ・ゆうすけ(41歳)
東洋大学駅伝部出身。ランニングコーチ。吉本興業所属のお笑い芸人「がんばれゆうすけ」としても活動。
フルベスト2時間24分54秒。
私が練習会に来たランナーに最初に指導することは、「脳はウソをつく」ということです。脳は心肺機能や脚の重さで「きつい」と思った時に「もうやめよう」と無意識にサインを出します。練習からその状態を体験することで、「きつくても大丈夫」と脳が学習します。そのための練習法を一つ紹介します。
途中歩いてもいいので、4時間動き続けてください。走力がある人は40㎞走をできるとなおいいでしょう。これだけ長時間動き続けると、レースでの脚の重さを疑似体験できます。それに加え、レースよりもペースに余裕があるので、「もうやめよう」という脳から出る声と長い時間対話を続けることになり、その脚の重さが本当にエネルギー切れなのか、脳のまやかしなのか、判断できるようになります。
(堤健至コーチ/2016年3月号「マラソンは脳力だ」より)
サブスリーを達成するようなランナーの多くは、フルマラソンでも心拍数が高まり、それに伴ってドーパミンやノルアドレナリンといった鎮痛作用のあるホルモンが分泌されます。このため、走行中は痛みを感じにくくなっています。
フルマラソンで前ももなどに痛みが出てしまいがちなランナーは、脳から「もう走るな」という防御反応が出ているのかもしれません。 それに打ち勝つ方法は、呼吸が苦しくなるまでスピードを上げて走る「ゼェハァ」ランです。事前にゼェハァする練習をしておくと、これらのホルモンを分泌させやすくなり、レースで脚が痛くなった際に「あのきつさに比べれば」と気持ちで頑張り続けることができます。
(後藤敏雄コーチ/2016年2月号「マラソンは脳力」より)
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