「脳」と聞いて私が思い出すのは2022年の別府大分マラソンです。
自己ベストを大きく更新するペースで集団を引っ張っていたのにキツくなく、「ゾーン」に入った感覚でした。終盤の向かい風でやや失速しましたが、それでも当時の自己ベストを更新する2時間28分38秒でした。
この時期はまだコロナ禍でレースが少なく、集中力をこの1本に注げたのが良かったのだと思います。また、40代前半に仕事でキャパシティオーバーを経験したこともあって、「脳は有限なので、常に頑張り続けるのではなく、普段は余白を持たせることがここ1番での力となる」と考えるようになりました。
そのため、平日の練習はゆっくりした通勤ランなど「頑張らなくてもできる内容」を中心にし、週末のロング走以外は無理をしません。出場するレースも回数を絞ります。仕事では朝に自身の業務をなるべく終わらせ、日中はゆとりをもったペースで作業や調整を行い、各種相談事に応じています。また、ネガティブな考えは脳を消耗するので、ランニング中も日常も前向きな思考を心がけています。
これらによって、レースでは練習以上の力が出せるようになりましたし、仕事では緊急時や想定外の事態にも慌てず対応できるようになりました。
ゾーンに入った別府マラソン
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みやはら・たけや(50歳)
保険会社システム運用部門のマネージャー職。
自己ベスト2時間28分14秒(2024年別府大分)。
私は6.7㎞を1時間以内に走ることを何周続けられるかという競技「バックヤードウルトラ」に取り組んでいます。 脳という意味で特に印象的だったのは2025年6月にオーストラリアで開催された大会で94周(約630㎞)の自己ベストを出した時です。
普段はレース中に「ここで無理をするとダメージが残るかも」「少し寝て回復させよう」などといろいろ考えるのですが、この大会は途中から記憶がありません。時間帯によって摂取する補給物やウエアを変えて、淡々と走り続けるという行動を、自分の意思とは関係なく“自動化”していました。
別のランナーに「ついてきて」と言われ、ペースアップして苦しさを自覚したことで解けてしまいましたが、それまでは「ゾーン」に入っていたと思います。この競技は何十時間も走り続けるので、普通にしていると脳はストップをかける方向に働きます。そのため、いい結果を残すには脳を使わないで自動化して走り続けることが必要だと考えています。
それにはレース中、「我慢」や「嫌」という感情をなるべく持たないことが重要です。このレース以降はまだその状態には入れていませんが、日常生活から仕事や様々な作業を「習慣」としてこなすことで、レースで再び自動化して走れないかと考えています。
走りを「自動化」して630kmの自己ベスト
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みずの・みちたろう(31歳)
プロウルトラランナー。大会開催など競技普及活動も行う。RUNNETで「バックヤードウルトラ」連載中。
走りながらルービックキューブを解いてギネス記録に挑戦するにあたり、目指したのは「考えなくても解ける状態」でした。1人公園でキューブを持って練習していたときは、キューブばかり見てしまって足元の石畳につまずきそうになることもありました。試行錯誤を繰り返す中で気づいたのが、「見ること」と「解くこと」を分けることでした。キューブは最初に状況を把握したら、あとは考えずに手を動かす。意識を走りに向けることで、走りとキューブの両立ができるようになりました。
振り返ると、一番大事なのは「自動化」だったと思います。マラソンも練習を重ねることで毎回「このペースで走らなきゃ」と命令しなくても、自然と身体が走りのリズムを覚えて動いてくれるようになります。 そうなると脳に余裕が生まれました。レース本番では、余裕が生まれた分、補給のことを考えたり、周りのランナーの動きを見たり、後半のレース展開を組み立てたり。限られた脳のリソースを、必要な判断に使えるようになりました。
脳の余裕は、生まれつきの才能ではなく、反復練習によって作るもの。ギネス挑戦を通じて、マラソンでも同じことなのだと改めて実感しました。
キューブ×ランを公園で反復
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すが・けい(43歳)
2022年、フルマラソン中に最も多くのルービックキューブを揃えたギネス記録を達成(420個)。
フルマラソン自己ベスト2時間44分(23年東京)。
脳は「呼吸」「消化吸収」「血液循環」「心拍数」「体温」など様々な身体の機能をモニタリングしており、どこかで異常が起きると自律神経を介してその機能を整えます。しかし、レース中は自律神経システムをフル稼働させるため、次第に疲弊していきます。このため、レース前はなるべくストレスのかからない生活を送ることが大切です。私が提唱している「脳疲労回復法」を試してみることをお勧めします。
・部屋の窓を開けて風を入れる
・デスクワーク中に「立ち上がって歩く」
・たまに寝坊する
・食事は誰かと一緒に
・オレンジ色の光が睡眠を深くする
・鶏肉を食べる
・足首を温める
・観葉植物を部屋に置く
(梶本修身先生/2017年4月号「科学で知りたい! マラソン『失速』にも脳が関係していますか!?」より)
レース中は「あのランナーを抜こう」「このドリンク美味しいな」と周りから刺激を受けるのも有効です。小さなことでも見つけて自分のモチベーションに転換していくことが大切です。
また、レース前やレース中にサプリメントを飲む場合も「この成分が筋肉にこの作用で効く」「あの有名な人も使っている」と自分なりに納得してから飲むと、脳が「効く」と思い込んでより効果的になります。
(中台慎二コーチ/2016年3月号「マラソンは脳力だ」より)
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