ランナーズonline Premium

脳のリミッターをはずして速くなる!②

2026年7月01日

「走る脳科学者」が解説

上手に筋肉を脱力させることにより、自律神経のバランスを
潜在力を発揮させる上で適切なところにチューニングしている


吉田響選手の事例を科学的にとらえるとどういうことなのか。国立精神・神経医療研究センターの本田学さんに解説してもらった。

「脳のリミッターをはずす」というのは、一番わかりやすいのは「火事場のバカ力」というものです。火事の時に、おばあさんがタンスを背負って運んだというたとえ話です。人間は普段は発揮しない潜在的な力を秘めていますが、それを肉体的限界に近いところまで出してしまうと命に関わります。だから、リミッターを掛けて余裕をつくっています。それが非常時、緊急時に自然にはずれるのが火事場のバカ力です。

吉田選手が話しているのは、この火事場のバカ力とは少しニュアンスが違うように感じます。
彼はシステマチックに自分のポテンシャルを最大限に引き出す方法論、「適切に脱力する」というスキルを持っているということだと思います。ガチガチになった身体をリラックスさせることで、交感神経と副交感神経のバランスを上手にコントロールしているのではないかと思います。

闘いに臨むには交感神経を高めなければなりませんが、緊張を維持して、全体を冷静に見渡し、状況を見極めてパフォーマンスを発揮するには、副交感神経もいい具合に高める必要があります。
交感神経はいわばアクセル、副交感神経にはブレーキの役割があります。

F1レーサーはアクセルとブレーキを同時にうまく使い、ものすごいスピードを出しています。同じようにマラソンでも、アクセルである交感神経一辺倒ではなく、ブレーキである副交感神経を同時に、いい具合に活性化させると、パフォーマンスを高いところに持っていくことができるのではないかと思います。
吉田選手はそれを「適切に脱力する」という独自のスキルによって行っているのではないでしょうか。 ただし、身体の状態、レース中の補給、気象条件など複合的な要因がある中で、危険な領域まで踏み込んでしまうと大阪マラソンのようなことが起きても不思議ではありません。


高齢ランナーほど効果的?

吉田選手が行っていることは特殊なことではなく、一般のランナーも応用可能なスキルだと思います。この技術によって、潜在力のうち、たとえばふだん2割しか使えていなかったものが、その倍近くまで出せる可能性も十分あり得ると思います。ただし、トレーニングで潜在力そのものを高めるのが先決で、そのうえでこのスキルを使うのが本筋だと思います。

自律神経の中枢は脳の視床下部にあります。視床下部の働きの一つは、絶えず身体全体をモニターし、末梢から送られる様々なシグナルを受け止めて自律神経を調節することです。

吉田選手はレース中に自律神経の働きを意識しているわけではないようですが、上手に筋肉を脱力させることにより、結果的に自律神経のバランスを、潜在力を発揮させる上で適切なところにチューニングしているように思われます。 彼が実行している日常生活におけるストレッチは、単に身体を和らげるだけでなく、レース中の緊張時にうまく脱力するスキルに役立っているはずです。

自律神経の調節機能は高齢になるほど低下します。血糖値、血圧、心拍が不安定になるのはそのためです。それを考えると、吉田選手の方法論は高齢のランナーほど効果的かもしれません。

ほんだ・まなぶさん

本田学(ほんだ・まなぶ)
国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第七部部長。フルマラソン自己ベストは3時間56分。川の道フットレース、100マイルベルリンの壁1周マラソンなど超ウルトラレースも完走。






※こちらから記事検索ができます。

ランナーズ9月号 7月22日発売!


脳のリミッターをはずして速くなる!

「僕は脳のリミッターをはずすことができるから、力を出し切れる」。1月のニューイヤー駅伝で22人を抜いたプロランナー・吉田響選手はそう語ります。「失速の原因は脳がブレーキをかけること」という理論を度々取り上げてきた本誌は今回、吉田響選手に「吉田流・脳のリミッターのはずし方」を徹底インタビュー。ランナーの実体験から、ランナーが脳のリミッターをはずして持てる力を最大限に発揮する方法を学びます。

ジョグジョグが聞く、教えて! あなたのMy Run, My Peace
純烈・後上翔太

50周年記念キャラクター・ジョグジョグが、走ることの魅力を探る連載第7回。今回は、歌謡コーラスグループ・純烈のメンバーとして、全国各地の温浴施設でも数多くのステージに立ってきた後上翔太さん(39歳)。「お風呂とマラソンの相性は最高。銭湯×ランニングの親善大使になりたい」と語る後上さんのランニングライフを聞きました。

夏を制する黄金タイムは?
朝ラン vs 夜ラン

これからの時期、日差しの強い昼間走ることは、とてもではないが難しい‥‥‥。では、いつ走るかというと、候補となるのは必然的に「朝」と「夜」の2つ。本企画では、朝ラン派と夜ラン派が実践談を通してそれぞれの利点を紹介。さらに、練習効果を倍増させる方法や、「朝起きてすぐに走り出しても大丈夫?」「夜にスピードを上げて走ると、その後なかなか眠れない」などのお悩みに専門家が答えます。



本誌購入は年会費7,800円「ランナーズ+メンバーズ」がお勧め!

「ランナーズ+メンバーズ」は毎月最新号が自宅に届く(定期購読)だけでなく、「デジタルで最新号&2011年1月号以降が読み放題」「TATTAサタデーランが年間走り放題」「会員限定動画&コラム閲覧可」のサブスクリプションサービス! 年会費7,800円の超お得なプランです。



※こちらから記事検索ができます。

「ランナーズonline」 一覧に戻る