※本記事は『ランナーズ2026年9月号』掲載内容になります。
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吉田響選手はどのように脳のリミッターをはずすのか。本人が語った。
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陸上競技を始めた中学時代、ラストのスプリント勝負ではかなわないので、3000mのレースでは1000mや1400mからロングスパートをかけるようになりました。
それ以来、いつもハイペースでレースに入っているので、必ず「このまま最後までもつだろうか」という不安が頭をよぎります。終盤、つらくなったときに脳がブレーキを掛けてくるのも感じます。
そういうときに僕は脳のリミッターをはずして、ペースを保ったり、上げたりすることができます。
そのための大事なポイントは「脱力」。いかにリラックスするかです。身体がキツくなると力んでしまい、走るために必要ではない筋肉にも力が入ります。肩周りに力が入って呼吸がしにくくなったり、余計な力を使うので酸素消費量が増えたりして、走りの効率が悪くなります。そうなると心理的にもキツくなります。
そうならないように、僕は腕をブラブラさせて、肩周りの筋肉をほぐします。身体をリラックスさせると、必要な筋肉だけを使って走れます。身体とともに心もほぐれてきます。
脳がブレーキを掛けてきたら、そうやって技術的に対処してペースダウンを防ぎます。僕はそれを「脳のリミッターをはずす」と表現しています。それができるのが自分の強みだと思います。
短距離の選手の走りを見ると、ラストは脱力しているのが分かります。口は堅く結ばず、開いているし、手はギュッと握らず、パーの状態です。そうすることで、ムダな力を省いて、必要な筋肉だけを使っているのだと思います。どの筋肉に力を入れるか、どこを緩めるかが大切なポイントです。
脱力するとともに、使う筋肉を少し替えます。ふくらはぎを使って地面を蹴り過ぎていると感じたら、臀筋とハムストリングスを使うようにする、といった具合です。その切り替えのテクニックが向上してきました。
大会で脳のリミッターをうまくはずせた成功例の一つは、創価大学4年次の箱根駅伝2区(日本人歴代最高記録で13人抜き)です。残り3㎞の戸塚の壁が迫ると、身体が硬くなってフォームを崩してしまう選手がたくさんいます。あそこで僕は上手に脱力して、ムダのないフォームで力を出し切ることができました。
今年のニューイヤー駅伝の2区(22人抜きで区間新)も成功例です。10㎞の通過がトラックの1万mの自己ベスト(28分12秒)を上回る27分42秒だったので、最後まで持つだろうかと不安になりました。でも、せっかくいい形でレースを進めてきたのだから、リミッターをはずして、このまま押し切ろうと決めました。
13㎞付近で先頭集団に追いついて今江勇人選手(GMOインターネットグループ)と平林清澄選手(ロジスティード)との競り合いになってからは、2人にリズムをもらいながら、焦らず、力むことなく最後まで走ることができました。
初めて脳のリミッターをはずせたのは中学3年のときのジュニアオリンピック3000mです。激しい雨の中、1000mで早めに飛び出しました。その後、追いつかれてもフォームを崩すことなく7位に入賞できたことが大きな自信になりました。ただし、あのレースは意識的に脳のリミッターをはずしたわけではなく、結果的にそうなっただけです。
写真 : 松尾/アフロスポーツ
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高校時代にラスト1000mや400mでペースアップする練習を重ねたことで、意識的に脱力してリミッターをはずせるようになりました。徐々にその精度が高まって、大学に入って以降は失敗したことがありません。
それは、以前より自分を客観視できるようになったからだと思います。テレビゲームにたとえると、ゲームの中で動いている自分と、それを操作している自分がいるイメージです。操作している自分がゲームの中の自分に脱力させている感じです。
今年の大阪マラソン(終盤の急失速で2時間9分35秒)はリミッターのはずし方を誤ったわけではありません。日本記録更新を目標にキロ2分56秒ペースでいくつもりでしたが、ペーサーがキロ2分58秒で刻んでいました。ついていくべきか、前に出て記録を狙うべきか迷いましたが、8㎞で脳のリミッターをはずして独走しました。
日本新に迫るペースで中間点を通過したときは、まだ半分かと不安に思いました。そこで身体が硬直しないようにリラックスしてフォームを整えました。
ところが32㎞から身体がおかしくなり、35㎞からは低血糖と脱水症状で意識が飛びそうになりました。ゴール後は50分間、話すこともできませんでした。
というわけで、あのレースに関しては脳のリミッターがどうという問題ではなく、身体が先に限界にきてしまいました。倒れる寸前までいったなかで力を振り絞ったレースです。
リミッターのはずし方が上手になってからは、キツいのが楽しくなって、心地よさを感じるようになりました。キツい場面がくると、「やっとレースが始まったな」とワクワクします。
脳のリミッターをはずして走ると、力を出し切ることになるので、レース後に大きなダメージが残ります。中学、高校時代もゴールしてから5分も10分も立てないことがありました。
最近は、走っていないときも身体を緩めることを心掛けています。自然に力が入ってしまっているときは静的ストレッチで緩めます。ストレッチポールを使って力を入れて、抜くエクササイズをすることで、力が入っている状態と緩んでいる状態が分かりやすくなりました。それによってフォームの切り替えがうまくできるようになりました。身体を緩めることで副交感神経を優位に保てるので、疲労回復や睡眠にプラスに働いていると思います。
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