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佐藤豊輝さん
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一般的に2時間30分を切るランナーは様々なトレーニングを行っていることが多いが、
山口県の佐藤豊輝さんはひらすら早朝の20㎞ジョグを繰り返すことで、
サブ2.5をキープしている。
「マラソンは毎日、おなじ距離、おなじペース、おなじコースを走ってもメキメキと速くなるんやよ。毎日継続できればね。必要なのは生活環境・リズム、モチベーション」
5月のある日、25年度全日本マラソンランキング47歳男性で3位となった佐藤豊輝さん(2時間28分50秒・ふくい桜)はこんな言葉をSNSに書いた。
毎朝4時台に起床。コーヒーを1杯飲んだら、5時からランニングをスタートする。練習メニューはキロ3分50秒~4分の20㎞ジョギングに固定。テンションの上がるアニメ音楽を聴きながら走る。コースはほとんど変えないという。ひたすら同じことを繰り返すことで成果をあげてきた。
インターバル走をしていた時期もあるが、故障した経験などから今はスピード練習を除外している。「インターバルのようなきつい練習をすると疲労が残り、いつもの20㎞ジョグができなくなります。すると走行距離と平均ペースが落ちてしまう」
キロ4分前後のジョグは決して楽なペースではないが、「全く苦にならず、最も楽しく走れるペース」だという。
こだわっているのは週間・月間の走行距離と平均ペース。休みは入れず、週120~140kmを目安とする。月1回、30~35kmのロング走を入れるが、ペースは普段よりキロ5~10秒速いだけだ。
GPSウォッチのオートラップ機能はオフにして1㎞ごとのペースは気にせず、20㎞の平均ペースだけを指標とする。「いつも同じメニューだから、前月と比べて走力がどれだけ上がったかが分かりやすい」。様々なメニューを行うと、そこが見えにくくなるというわけだ。
「月間600㎞走って、平均ペースが1秒速くなったとしたら、トータルで600秒=10
分速くなっているわけで、そう考えると自己肯定感につながります」
と話す。練習はきわめて単調だが、「続ければ絶対に速くなる、だから、やめるわけにはいかない、やめたらもったいない」
使うシューズは2種類、持っているウエアも少ない。
「あれこれ考えなくていいのが一番のメリットかもしれません。その日の体調を把握できるし、1日のリズムが整う」「大事なのは練習メニューより、いい練習環境と生活環境だと思います。疲労が仕事に影響することがなく、いい生活リズムを保っているから練習を継続できる。体調、体重管理もしやすい」
メニューを大きく変化させるのはレース4日前からの調整で距離を半分に落とす時だけ。
マラソンペース(佐藤さんの場合、キロ3分30秒)の練習は一切、していないことになるが、「練習とレースのペース差が30秒なので怖さはない」という。「トレーニング理論からすると特殊な方法だと思うけれど、これが自分に向いています」という確信をもとに、習慣化したトレーニングを崩さず、サブ2.5の力を維持している。
トレーニング
毎朝5時からの20㎞ジョグ
(時間もコースもペースもほぼ固定。時計は見ず音楽を楽しみながら走る)
前述の山本さんと佐藤さんの練習について、昭和女子大学の丸尾祐矢先生とプロランニングコーチの山﨑竹丸さんが分析した。
習慣化すると練習が途切れず速くなる
同じ練習を繰り返し継続することで走力を向上させているお二人の事例を興味深く拝見しました。共通しているのは、練習に合わせて生活をしているというより、生活に合わせて走っているということです。追い込むメニューをしようとすると、どうしてもその練習に合わせて意気込み、生活を練習中心に考えがちです。お二人はその逆で、ランニング自体を楽しみ、その生活の中で遂行可能な練習を習慣化しています。そのため、練習が途切れる可能性が低く、結果的に練習量が増えていると推察されます。
「どのようにして習慣化するのか」というテーマは心理学でよく議論されており、行動の前の意思決定をできるだけ減らすことが行動の習慣化につながりやすいとされています(フォッグ、2021)。ランナーの方は「今日の練習は何にしようかな」「どこを走ろうかな」「いつ走ろうかな」など色々考えると思いますが、そこには「考える」という手間が発生し、行動への障壁が高まります。一方、毎回同じメニューを設定していれば「考える」ことが省け、行動につながりやすいでしょう。山本さんの「目的地を決めて走って行き、走って帰ってくる散策ランのみで、インターバル、ペース走はしない」、佐藤さんの「同じメニューを繰り返すのは、それによって生活のリズムを変えなくていいから」というコメントからも、余分な意思決定が省かれていることが見て取れます。
身体への刺激という観点からは、同じ練習を続けると適応が生じ、強度が物足りなく感じるかもしれません。また心理的に同じ内容への飽きも起こりやすくなります。こうした問題への対策として、主観的運動強度(自身がランニング中に感じる楽さやキツさ)を取り入れる方法があります。
お二人ともタイムで練習を管理しておらず、ご自身の感覚でペースを調整されています。山本さんの場合、「ジョギングは名所を回るための手段」、佐藤さんも「走りながらペースは確認しておらず、終わってから振り返る」と述べています。追い込みすぎず、ほどよい強度(至適強度)で練習を積み重ねられているのだと推察します。お二人の練習は、一見同じ内容に見えても、その日の体調に合わせて練習しているため、自然と強度が調整されているのだと思います。そのため次の練習に過度な疲労を残すことがなく、練習を継続できているのではないでしょうか。
主観的な運動強度に慣れないランナーの方は、同じ10㎞を走る場合でも、1日おきに「きつい10㎞」と「楽な10㎞」を交互に行う、というように、自分の感覚で強度に変化をつけるところから始めてみるとよいでしょう。
(昭和女子大学准教授 丸尾祐矢先生)
参考文献/ BJ・フォッグ(2021)『 習慣超大全——スタンフォード行動デザイン研究所の自分を変える方法』ダイヤモンド社
2人のランナーのトレーニングに共通する部分として、普段のランニングがマラソンペースよりは遅いもののほどほどの心拍数を保った強度であること、距離が20 ㎞付近で時間にして80~120分であることが挙げられます。このような練習は海外では「ミディアムロングラン」に位置づけられており、ダメージが少なく、継続することで効率良くスタミナを向上させるのに適した練習と言えます。 特別な準備や集中力を必要としないため、心理的なハードルが下がることも継続しやすい要因になっていると思います。
実は、2人のようにほぼ毎日ほどほどの強度で走り続けていた過去の名ランナーに、1964年東京五輪1万m銅メダリストのロン・クラーク(オーストラリア)がいます。クラークは五輪のメダルこそ1つであるものの、土トラックながら1万m27分39秒で走るなど、世界記録を17個も樹立しています。そんな彼は、毎日夕方に芝生で16~20㎞を後半キロ3分前後まで上げるトレーニングをしており、インターバル走はほとんどしていなかったそうです(朝も含め2~3部練習をしていた)。キロ3分は確かに速いですが、走力から考えると全力ではなく、心地よいキツさだったのではないでしょうか。
こうした「ゆっくりではないけれど、毎日走り続けられる」強度のトレーニングは有酸素能力を鍛えるのに非常に効果的です。繰り返し行うことで、キツくないペースの上限が速くなっていき、マラソンのタイム向上に直結します。具体的な要素でいうと乳酸性作業閾値(LT)が向上するということになるのでしょうか。続けることによって、同じ感覚で走ってもタイムが速くなるので、それがモチベーションにつながりやすいのもポイントです。
実際に行う場合、距離はご自身にとって週3日程度続けられそうな範囲(6~10㎞程度が目安)から始め、ペースはやや楽~ややキツいの間ぐらいがいいと思います。心拍数の場合、年齢によっても変わりますが1分あたり140~150前後が目安です。
こうしたトレーニングで有酸素能力を鍛えながら、月1~2回はレースに出るか練習会に参加してスピードを上げて走るのがお勧めです。前述のクラークも多数試合に出るランナーだったそうですが、難しいことを考えなくても有酸素ランニングを繰り返しながらレースの刺激を入れることで、かなりのレベルまで速くなれると思います。
(まるランニングクラブ 山﨑竹丸コーチ)
❶ 繰り返す練習は
10㎞以上がお勧め(最初は短くても良い)。
メニュー以外にも時間などを固定化して、「考える」要素を減らす。
❷ 週3 回以上は走る機会をつくる。
❸ タイムはなるべく気にせず、その日の感覚で走る。
(楽~ちょっとキツいの間のペースがお勧め)
❹ コースや音楽など、同じ練習を続ける中で自分なりの楽しみを見つける。
❺ 走行距離や平均ペースなど、自分なりの指標をつくる。
❻ 月1~2回はレースや練習会に参加する。
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