同じ練習を繰り返し、習慣化して結果を出しているランナーがいることをどう解釈すればいいのか。「運動習慣の心理的プロセス」を研究テーマとする神戸大学大学院人間発達環境学研究科の髙見和至教授に解説してもらった。
同じ行動を同じ条件で、何度も繰り返し、その結果に何らかのメリットがあれば「習慣」は形成されていきますが、その度合いは人によって異なります。その習慣の強さや個人差を「習慣強度」と呼びます。少し前に「ランニング依存症」という言葉がメディアで使われることもありました。これは習慣強度が過度に高い状態のことですが、大切なのはランニングと生活のバランスです。
では、どうすればランニングの習慣強度を高められるのかという点です。習慣強度は4つの因子(①固定化行動②自動性③契機動因④否定的感情)から構成され、これらが相互に影響して高まります。
そこで、習慣強度を高めて習慣化する最初のポイントになるのが①固定化行動です。簡単に言えば自分のルーティンを決めることです。そのポイントは、同じ条件(日時・場所・内容)で繰り返すことです。「無理なく継続できる内容にすること」を優先してください。最初から長い距離を設定するより「毎日コースに出る」など、ハードルを低くしましょう。そして自分で決めたことを継続できたことを肯定してください。距離や速度などは自然に向上していきます。練習の頻度も「自分で決めた定期的な実践」であることを目指しましょう。
もう一つのポイントは②自動性です。我々は習慣化している行動ほど、やり方に迷ったりあれこれ考えたりしていません。特に運動では開始まで、ランニングであれば玄関を出るまでの自動性が課題になります。シューズや服装、飲料の事前準備も習慣化に重要です。
この二つの要因が高まると、我々は何ら負担感なく行動するようになります。ランナーならば、ある日時や場所という環境条件が揃えば、いちいち決断する間もなく走っているのではないでしょうか(③契機動因)。さらに、もしその行動ができなかった場合には、心身ともに満たされない④否定的感情が生まれるようになり、行動の習慣化を促進していきます。
この企画の両名ですが、まず山本道男さんはご自身のルーティンを確立されています。この固定化された練習では、練習内容よりも自分の細かな動作の改善や走りのモニタリングに注意を向けることが可能になります。習慣化が練習の効率や成果を高めていく好循環となっている典型例だと思われます。
佐藤豊輝さんも習慣化の4因子をかなり充足されていますが、もう一つ要点になるのは、毎回のタイムを記録することで、練習成果を継続的に把握していることです。実は運動が習慣化しづらい原因の一つに、具体的な結果が出て効果を自覚できるまでに時間がかかるという特徴があります。特に減量などの健康目的は、成果を自覚できるまでに時差があるため、その行動を疑いがちになり習慣化を阻害します。人間は自分の行動の結果や報酬をすぐに欲しがります。走った後のビールなどの「ご褒美」の設定も有効です。
お二人に共通しているのは「努力は夢中に勝てない」ということだと思います。ここでは、毎回練習するかどうかを考えて自分に言い聞かせてやっている段階を「努力」とします。一方、習慣化されて自然にそれに没頭している状態を「夢中」だとします。運動やスポーツに関わらず、我々が最も伸びるのは「夢中」の段階です。技能や能力の向上においても、行動の習慣化は不可欠です。
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