スポーツ栄養

SPORTS

ランナーの質問箱「歳を重ねても筋肉は発達する?」(前編)~たんぱく質の摂り方にはコツがあった!~

2021年5月21日

Question
筋肉は加齢とともに衰えると言われていますが、高齢でも筋肉質な身体を維持しているランナーがいます。そのような身体を目指すのに、何か秘訣はありますか?

Answer
年齢が高くなるほど、加齢による身体の変化も受け入れながら、走るための身体づくりにも目を向けて! 食事は量・質と合わせて、トレーニングとのタイミングも大切。たんぱく質の摂り方もカギを握ります!


回答者:深野祐子(管理栄養士・ランニングコーチ)


“50、60代で自己ベスト”ランナーの身体の違いって?

――50代、60代になってもまだ好記録や自己ベストを出しているランナーって、いったいどういう身体の構造になっているのか気になります。そもそも、筋肉って歳をとっても発達するのですか?

深野先生(以下、F):そのような方は、日頃からパフォーマンスを高めるトレーニングに取り組み、その分、それに耐えられるだけの身体づくりも行っているのではないでしょうか。
一方で、年齢とともに筋肉量は減少していきます。成人の骨格筋量が年齢とともに減少してしまうのは自然な現象。筋力と神経系の低下は避けられません。データとしては、30~80歳までの50年間で筋肉の太さは約50%まで減ってしまう計算になるんです。


――えっ! 半分になっちゃうんですか…。それじゃ若い頃のように走るなんて夢のまた夢…。

F:さらに言うと、筋力や柔軟性、持久力などの「体力」も年齢とともに低下します。運動習慣のないまま過ごしていると、筋肉量の減少と合わせて50~60歳以降は急激に低下するとも言われます。運動習慣がある人も、若い頃といつまでも同じでないことは事実です。
でも、安心してください、筋肉は歳を重ねてもちゃんと発達します。もちろん、体力を向上させることも可能です!

筋肉はたくさんの線維が集まってできており、大きく「速筋線維(速筋)」と「遅筋線維(遅筋)」に分けることができます。遅筋は「収縮する速度は遅く、力は小さいがスタミナのある筋肉」。持久的なトレーニングで発達するのは主に「遅筋」です。速筋は「収縮する速度が速く、大きな力を発揮することのできる筋肉」です。主に速筋が40歳頃を境に減りやすくなってしまうことが、身体の動きの鈍さにつながります。


――速筋って、ランナーにも必要なんですか?

例えば…、ラストスパートでスピードを上げるとき、また転びそうになった時にとっさに身体を支えるときに力を発揮するのも速筋です。
この速筋をキープするには、大きな筋力を発揮する運動が必要です。ランニングならゆっくり長く走るだけでなく、やや強度の高い練習を取り入れる。より効果的なのはレジスタンストレーニング……つまり筋トレです。

また、これまで運動習慣がなく、50代から(40代の方も…!)ランニングを始めてマラソンに挑戦する場合、筋力はもちろん基礎体力が低下している状態からのスタートだと心得なくてはなりません。“マラソンのトレーニング”に耐えられる身体づくりとして、ただ走るだけでなく、基礎筋力や筋持久力をつけていくために筋トレを練習に取り入れることも重要です。


――筋トレですか。大事とはわかっていても、どうしても走る時間を作ることを優先して後回しにしがちです。

F:走ること自体は、もちろん素晴らしい運動習慣です。でも、走るだけでは鍛えることが難しい筋肉を、筋トレを行うことによって身体の基礎を作っておくと、ケガの予防や故障のリスクを減らすほか、ランニングフォームの改善や効率よく走れるようになる、長時間・強度の高いトレーニングにも耐えられるようになる…といったメリットもあります。
50代以降のランナーが長く走り続けるには、習慣として適度な筋トレを取り入れ目的や身体の状態に応じた身体作りにも取り組むことをおすすめします。


筋肉はたんぱく質摂取とのタイミングで効率よく育つ!

――私もできるだけ元気で長く走っていたいです! どうしたら筋肉を効率よく増やすことができますか?

F:筋肉は日々、タンパク質によって体内で作り替えられています。昨日と今日の自分は、見た目には大きな変化がないようでいて、細胞レベルでは24時間常にタンパク質の合成と分解が繰り返されているのです。この繰り返される合成と分解がプラスマイナスゼロだと、筋肉量を維持している状態。筋肉量を増加するためには合成を促す“刺激”が必要で、それが食事であり、運動(特に筋トレ)です。

歳を重ねると、筋肉のタンパク質の「合成」を促す刺激自体が少なくなったり(食事量が少ない、たんぱく質など栄養素が不足している/運動不足等)、その刺激(食事や運動)に対して起こる身体の力も低下し、つまり、合成する力が弱まり、その結果、筋肉量の減少につながると言われています。


――運動を習慣的に行っていても、その機能は低下してしまうのですか?

F:定期的に運動を行うことで、“「合成」を促す刺激”(食事や運動)に対する身体の力は改善します。また、運動(特に筋トレ)と食事を組み合わせることで、筋肉のタンパク質合成をより促すことができます。このタイミングを逃さず、たんぱく質を十分にとれる食事や補食、サプリメントなどで適切な栄養補給を行うことが、歳を重ねてからも筋肉を維持する(増加する)ためのポイントです!

また、気を付けたいのはレースに向けて長時間(強度の高い)練習をしているランナーです。長時間にわたるランニングは筋肉のタンパク質もエネルギーとして利用してしまうため、筋肉のタンパク質がより分解してしまうことがあるのです。練習量に対して、食事から摂取するエネルギー量やたんぱく質などの栄養素が不足していると、それ自体によって筋肉量が減少してしまうことも…。
できるだけランニング中の筋肉のタンパク質の分解を抑制する。終了後には筋肉のタンパク質をできるだけ早く回復・修復するための食事や補食、サプリメントの摂り方も重要になります。

さらに、歳を重ねると血管や心臓など循環機能の変化や、関節の変形などによるひざなどの痛みなどの問題もでてきます。ただやみくもにトレーニング量を増やす、強度の高いトレーニングばかり行う等、体力に合わない運動はケガの原因や身体の大きな負担になります。
加齢にともなう身体の変化を受け入れながら、体力にあった強度の設定をする、回復のための休養をとる、不調や痛みのある時は無理をしないことも必要です。ケガや病気で運動できない・痛みなどで歩くのも難しくなった場合、筋肉量が急激に減ってしまうリスクもあるので…。


――若い頃と同じ練習量や強度でトレーニングし続けているだけでは、危ないということか…!

F:そうなんです…! だからこそ、目標や目的、体力にあわせた適切なトレーニングとともに、食事面ではトレーニングにあうよう、量と質をバランスよくとること。さらには食事のタイミングも重要になります。筋肉量を維持する、増やすためには特に食事からしっかりとたんぱく質(肉、魚、卵、乳製品、大豆製品など)を摂る必要があります。歳を重ねると食が細くなりがちですが、なおのこと意識して取ることが大切です。


あのおなじみ「BCAA」のひとつ『ロイシン』に注目!

――たんぱく質なら何でもよいのでしょうか?

F:肉や魚、卵、乳製品、大豆製品などの食材・食品から良質なたんぱく質を摂りましょう。良質なたんぱく質には、身体のたんぱく質を合成するのに必要な9つの必須アミノ酸がバランスよく含まれています。必須アミノ酸のなかでも、BCAA(分岐類アミノ酸)は筋肉を構成するタンパク質に多く含まれ、長時間や高強度のトレーニングではエネルギー源としても利用されます。さらにそのうちのひとつ『ロイシン』がカギ。『ロイシン』は筋肉のタンパク質を合成するシグナルの働きがあることが知られているのです。食べ物だと、植物性たんぱく質にも含まれていますが、動物性たんぱく質(肉、魚、卵、乳製品)により多く含まれていますね。また、運動時にはBCAAや中でもロイシンが多く含まれているサプリメント等を活用するのもおすすめです。


――それは積極的に摂っていきたいです!! お肉を多く食べる代わりに、糖質を少し制限しようかな…

F:待ってください、糖質も大切なんですよ。糖質は肝臓や筋肉に「グリコーゲン」として蓄えられたり、インスリンというホルモンを分泌する役割があります。糖質が不足すると、たんぱく質を効率よく取り込むことができません。一度の食事で大量に身体のタンパク質を合成することもできないので、毎回の食事でたんぱく質と併せて糖質もバランスよく摂るのがベストです。もちろん、脂質やビタミン、ミネラルも大切ですよ!

後編はこちら



「スポーツ栄養」 一覧に戻る