参加資格3時間30分以内の別府大分マラソンを2年連続で取材し、自身も同レース出場を目指しているフリーライターの岩谷隆志さん(62歳)が、サブ3.5への憧れを綴りました。
私にとってサブ3.5はあるレースへの出場切符そのものだ。その大会は「憧れ」であると同時に、自分自身に対して、あるいは自分と同程度の走力・年齢のランナーに対しては、「厳しさ」を容赦なく突きつけてくる。
別府大分マラソン。歴史あるエリートランナーの大会だが、第60回記念大会より参加資格タイムが3時間30分以内と緩和された。私は取材者として、昨年と今年、ゴール後のランナーが語る言葉に耳を傾けた。
特に印象的だったのは、3時間30分のボーダーラインぎりぎりでゴールする、私が目指すべき走力のランナーたちだ。そのほとんどが、激走の末に完走できた達成感、安堵感と共に、別府湾の寒風にさらされ、結晶化した汗塩を顔中に浮かばせながら、ある種の悲壮感をも漂わせていた。そして多くが、関門を通過できるか否かの戦いだったと吐露した。ある61歳のランナーは今回初めて出場したが、これで最後かもしれないと語った。過去の資格で出られたけれど、関門を通過できずにリタイアという60代半ばの人も何人かいた。
3時間30分切りを目指す。しかも加齢に抗いながら、というのはこういうことなのか。しかしながら、別大マラソンが突きつけるそんな「厳しさ」と、一方の何ものにも代えがたい「憧れ」を天秤にかけてみても、やはり私の中では「憧れ」の方が勝つ。「何だっていい。別大に出たい!」
今回ランナーズが実施した「あなたにとって、3時間30分切りとは?」という達成者へのアンケートの回答では「上級者ランナーの仲間入り」という人もいれば、「単なる通過点でしかない」という人もいる。「別大マラソンへの参加権利」という人もいる。私と同じだ。
人それぞれ意味は違う。感じる価値も異なるのだ。所詮は自己満足、趣味の世界でしかない。でもそこには、他の趣味とは違う独特の世界がある。それは「結果がタイムという明確な数字で表れるから」ということではないか。これは4時間30分切りやサブフォーでも同じかもしれないが、サブ3.5の場合「達成できるのはマラソン人口の約10%」といった、わかりやすい数字まで付いてくる。
23年度の「全日本マラソンランキング」によると、60歳男性の3時間30分切り達成率は7.6%、65歳に至っては約3%まで低下するという。これは本気で立ち向かわないと、実現困難ということだろう。3%という数字は、男性全年齢の3時間切り達成率4.4%よりも低い。つまり私は、若者の3時間切りに匹敵するような難しい挑戦をしているということになる。これは相当に至高のロマンだ。
それにしても、今年の夏は本当に暑い。走り込みに勤しむも、暑くてペースはぜんぜん上がらない。この秋の3時間30分切り再挑戦に向けて少し弱気になってしまう。そんな時私は、自分にこう言い聞かせる。「去年は暑い夏を経て、秋のつくばで春から10分以上もタイムを短縮できたじゃないか」。
今日もまたその成功体験だけを信じ、夜明け前のまだ薄暗い街へ至高のロマンを求めて私は走り出す。
いわや・たかし
フリーランス・ライター兼コピーライター時々デザイナー。40歳を過ぎて走り始める。長年4時間前後だったが、昨年のつくばで14年ぶりに自己ベスト更新(3時間39分34秒)。3時間30分切りに挑戦中。
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