※本記事は『ランナーズ2024年2月号』掲載内容になります。
後半にペースアップして世界記録保持者となったケルヴィン・キブタム選手 ©Bank of America Chicago Marathon/Kevin Morris.
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9月以降、全国各地でフルマラソンが開催されています。出走した皆さんは、トラブルなく終えられましたか? どんなに練習を積んでも、万全の準備をしても、レースではなぜかトラブルが起こってしまうもの。本特集では、多くのランナーが経験するレースでの3つの「困った」を取り上げ、コーチや専門家が対策を指南します。「困った」を抱えている皆さん、今冬のレースに向けてぜひ参考にしてみてください。
この秋、フルマラソンの世界記録が男女ともに更新された。その時のペース配分はいずれも後半のほうが速い「ネガティブスプリット」だった(下グラフ参照)。では、フルマラソンで理想のペース配分は「後半型」なのだろうか? トップ選手と市民ランナーに違いはあるのか? 4人の専門家に話を聞いた。
男女の世界記録と日本記録の5kmごと・30km以降のスプリットタイム推移グラフ
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ネガティブスプリットの正体は目標ペースの余裕度?
まずはペースについての統計的データから確認しよう。世界記録と日本記録のペースをグラフ化した。世界記録の男女、日本記録の男子が、後半ペースアップして樹立されている。最近の世界トップ選手は終盤のペースアップが驚くほど速い。現世界記録保持者のケルヴィン・キプタムは後半のハーフがなんと59分台。エリウド・キプチョゲが2018年に非公認で2時間を切った際にはペースメーカーが途中で交代する形式でイーブンペースを保っていたが、やはり最後にペースアップしている。
もう少し対象者を広げてみたのが下の表1だ。2000年以降に出された世界記録を分析すると、男子は8回のうち5回、女子も4回のうち3回が後半のほうが速いネガティブスプリット(赤字)となっている。日本記録は男子が6回のうち3回、女子は3回とも前半のほうが速いポジティブスプリットだ。
世界記録にネガティブスプリットが多いのは、記録更新を狙えるペースで途中までレースが進み、そのペースでも余裕のあるランナーがさらにスピードを上げた結果だろう。つまり、彼らは目標ペースに対してより力があったゆえに、ネガティブスプリットになったと考えられる。
桜美林大学の山本正彦教授は「世界記録がネガティブスプリットになっているのはあくまで『結果』。どんなレベルのランナーでも最大限力を発揮しようとしたら、イーブンペースで走るのが望ましいことに変わりはないと思います」
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表1 フルマラソンの前半/後半のタイム
2000年以降の記録を掲載(後半が速い記録は差をマイナス表記) |
2003年荒川市民マラソンにおける男子・女子ランナーの10km毎のスプリットタイムの推移グラフ
[東京工芸大学工学部紀要 Vol.27 No.1(2004)]より引用 |
では、私たち市民ランナーにとってはどうだろうか? 山本教授らは2003年荒川市民マラソンで男子1万570名、女子1736名ものランナーを対象に、ペース変動について研究している。図ではゴールタイム(右側)ごとにグループ分けした上で、それぞれの10kmごとのスプリットタイムを折れ線グラフにしている。
山本教授によるとポイントは以下の通り。
① 上位ランナーほどイーブンベースに近く、下位ランナーほど後半が落ちていく(いわゆる撃沈レース、結果としてポジティブスプリットの形となる)
② 男子で4時間超え、女子で5時間超えレベルのランナーは、距離が進むほどペース下落率が激しくくなる
③ 最下位レベルでは、ゴールが近づくほど「ゴール制限時間との戦い」が激しくなり、ベース低下を抑えようと頑張っている
こうしたランナー心理は、今でも共通する普遍的なものではないだろうか。
この山本教授の研究によれば、上位ランナーほど後半の下落率は低く、イーブンベースに近い。「0〜10km」区間と比べた「30〜40km」区間でのタイム下落率を見ると、男子では3時間以内、女子では4時間以内の上位グループで、下落が10%未満にとどまっている。この10%以内というペース下落率は、多くのランニング関連論文で「ペース管理に成功した」と好評価される水準だ。
市民ランナーのレースパターンを分析した桜美林大学の山本正彦教授
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筑波大学の鍋倉賢治教授も2018年のつくばマラソンで完走者のペース変化について分析している。それによると前半と後半のタイム差がほぼ10%以内に収まっているのは4時間半までのランナー。それよりも完走タイムが下がると前半・後半の差も大きくなる。
鍋倉教授は「いかにイーブンベースに近づけられるか」がポイントだと考えており、「前半と後半のタイム差が10%という基準は個人的には大きすぎると思う。5〜6%に収まれば『ある程度力を出し切れた』と評価できるのではないか」と指摘する。
筑波大学の鍋倉賢治教授は糖の使い方をポイントに挙げる
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【コラム】直前の食事で脂質代謝が変わる
走る時に使われるエネルギーの種類は直前の食事によって変わることが分かっている。脂質を多くとれば脂質代謝が高まり、糖質を温存できる状態になるという。
本誌2022年12月号に掲載した天理大学の岩山海渡先生の記事を転載する。
マラソン前は糖質を多めに食べて身体にグリコーゲンを蓄える「カーボローディング」をしている方が多いと思いますが、身体は運動前に糖質が多い食事をするとグリコーゲンを、脂肪分が多い食事をすると遊離脂肪酸を一時的に多くエネルギー源として利用しやすくなります。私が行った実験でも、カーボローディング後に当日の朝食を高脂肪食にしてフルマラソンのレースペースで走った結果、当日も高糖質食の場合と比較してグリコーゲンの消費を抑えられることが分かりました。私自身もレース前日までは糖質を多めにとり、当日の朝食ではクリームパンを食べるなど脂質の割合を増やしています。
ただ、運動前の脂質摂取は「体質的に合う合わない」がありますので、必ず一度は事前に試してみましょう。
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