ランナーズ2011年10月号では、ランニングが脳機能に及ぼす影響について研究する筑波大学体育系(運動生化学)の征矢英昭教授を取材。ここでは当時の記事をもとに、最新の知見を反映した征矢教授の解説文を掲載する。
2011年10月号の誌面
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ランニングで脳は活性化します。様々な機能が向上するので、日常生活やビジネスにも役立ちます。そして興味深いことに、ランニングの強度によって脳への影響は変わってくるのです。
スローランニングなどの低強度運動は、視床下部への影響は小さく、食欲や性欲などの本能的な欲求を穏やかにする一方、側頭葉の海馬を刺激し、記憶能や未来構想力を高めることができます。 動物実験では、海馬への刺激は神経新生や海馬肥大などの適応を促すことで、ストレス耐性を高め、PTSDの症状を軽減することが分かっています。
最近、人のスローランニング(※)が、前頭前野背外側部(以後、前頭前野)を刺激することを明らかにできました。 前頭前野は、「注意・集中」「判断力」「行動力」を司ることから、事業計画、経営判断・意思決定などビジネスにも有用です。
※きわめて低速だと感じる速度でのランニング
レースペース前後の中強度のランニングを行うと、視床下部が適度に活性化し、少量の乳酸やストレスホルモンが分泌され、マイルドな運動ストレスとなりますが、低強度運動と同様に海馬や前頭前野が活性化し、認知機能の促進効果が期待できます。ただし、高強度で長時間のトレーニングを続けると、抑うつ気分になったり、認知機能や免疫機能が低下する可能性もあり、十分な休養をとりながら行う必要があります。
全てに共通して言える重要なポイントが、人々の快適生活を担保する、「活気にあふれた」などの前向きな気分を感じられることです。 そう感じることで、運動で得られる判断力など認知行動がより効率よくできることが示唆されています。つまり、自分がより強く「気持ち良い」と思える環境を求めて走ることが大事です。
大学院などで研究経験を持つ現役ランナー4人(※)が語り合う連載「走る研究室」。2022年10月号では「脳グリコーゲン」がランニングのパフォーマンスに影響するという研究を紹介した。
※古川大晃………東大大学院時代に箱根駅伝出場
三津家貴也……筑波大大学院出身のインフルエンサー
近藤秀一………東大在学中に箱根駅伝出場
福田裕大………金沢大卒業後に市民ランナーとしてMGC出場権を獲得
2022年10月号の誌面
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古川大晃 グリコーゲンローディングといえばレース数日前から糖質が多い食事をとって筋肉にグリコーゲンを貯蔵するという戦略でした。筑波大学の研究では、ラットの実験ですが、脳のグリコーゲン量も持久性パフォーマンスに関わっていて、それをローディングする方法があるといいます。
三津家貴也 どんな結果が出たのですか?
古川 中枢神経が疲労しにくくなり、運動で疲労困憊になるまでの時間が長くなったことと、認知能力が向上し物体を見分けるテストの結果が改善しました。
近藤秀一 脳のグリコーゲンを増やす方法は?
古川 7日前に疲労困憊になるような運動をするとグリコーゲンが高まったそうです。経験則として1週間前に激しい練習をしたら翌週のレース結果が良いことってありますよね。
三津家 レースを連戦したら2週目の方が好結果だったことも結構あります。
福田裕大 「瞑想」がパフォーマンスを上げると聞いたこともあります。身体の疲労と別に脳の疲労はある気がします。
脳グリコーゲンに関する研究を行う筑波大学体育系の松井崇准教授にランナーが活かせる知識を聞きました。
スマホを使用後に運動すると筋力発揮・持久力がともに低下するという研究があります。
一方のグループはSNSやネットサーフィンでスマホを45分間使った後にスクワットをできるところまでやる、もう一方のグループはドキュメンタリーを45分間見た後に同様にスクワットを行うという比較実験を行った結果、事前にスマホを45分間使った方が、スクワットの回数が落ちるという結果でした。 これは、認知疲労が筋力発揮を低下させることを示しています。 さらに、スマホを45分間使った後は、自転車で最大出力の80%の負荷で運動する時の限界までの時間が短くなるという結果も出ています。つまり、筋力発揮だけでなく、持久力も落ちるということです。
このことから、レース前にスマホを使っていると、実はレースでピークパフォーマンスを出せていない可能性があります。スマホを使っている時にも脳内で脳グリコーゲンが使われている可能性があるのです。ですので、レース直前はスマホを置いてボーっと過ごすのが、一番です。直前のスマホに限らず、レース前夜に遅くまでパソコン仕事をするというのも、脳グリコーゲンを減らす行為と言えます。
まつい・たかし
筑波大学体育系運動生化学領域代表・准教授。脳グリコーゲンからみた運動による中枢疲労の神経機構解明とその予防策開発を研究。
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