スポーツ栄養
SPORTSQuestion
「質の良い睡眠」を戦略的にとることは、スポーツのパフォーマンスにも大きく影響すると知りました。具体的にはどんなことを意識すれば、その質が高まりますか?
Answer
朝晩の食事や運動、過ごし方を「体内時計」に沿うよう見直して。睡眠の恩恵をしっかり享受できる「リカバリーするのに最適な状態の身体」を目指しましょう!
回答者:深野祐子(管理栄養士・ランニングコーチ)
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――前回、しっかり睡眠をとることは、トレーニング同様に大切なリカバリーのために必須だということを教えていただきました。これまでの生活で睡眠を雑に扱い続けてきてしまったことを反省しています……。
深野先生(以下F):気づけて良かったです!上手に眠るための「睡眠のとり方の上達法」はちゃんとあります。まずは睡眠について正しく知ることから始めましょう!
――お願いします! そもそも、理想的な睡眠時間ってあるんですか?
F:アスリートでは8時間以上の十分な睡眠によってパフォーマンスが向上する、といった報告もみられますが、一般に適切な睡眠時間は6~8時間と考えられています。15歳前後で8時間、25歳で7時間、45歳で約6.5時間、65歳で約6時間、と年齢を重ねるごとに減少することや、性別、季節や気分によっても異なることがわかっています。トレーニング内容や練習量なども含めて個人差があります。
――自分が本来どれぐらいの睡眠時間を必要としているのか、判断の目安はありますか?
F:日中に困るような眠気がないかどうか、が指標判断の一つと言えますね。ちなみに、もし日中に眠気を催したら、30分程度の昼寝をするのも、その後の活力UPに効果的です。遅い時間になりすぎると夜に影響するので、15時前までを目安にしましょう。忙しい毎日の中で、ランニングの時間を捻出するのは大変なことですが、走ることに夢中になるほど、またマラソン大会などに向けて目標があると、睡眠時間を削るような無理なスケジュールになりがちです。トレーニングとリカバリーはセットになっていると心得て、睡眠時間を確保できる練習スケジュールを組むことも大切です。
F:上手に眠るために、まず「睡眠の仕組み」を知っておきましょうか。睡眠には大きく分けると2つのメカニズムがあります。一つは、夜になると眠くなる「体内時計による調節」。毎晩、いつもの時間になると眠くなる……これは、体内時計によるものなんですね。睡眠のほかにも、体温や血圧、ホルモンなどが大きく影響を受けています。
もう一つは、身体の状態を一定に保つ『ホメオスタシス』による調整。疲れた身体を元に戻そう、という身体の機能のことです。
日中に活動していた時間の長さによって睡眠の長さや質が変化しますし、ハードに運動した日や、徹夜した後などに泥のようによく眠れたりするのが当てはまります。一方で、強度が高い、長時間にわたる等、ハードな練習によるストレスや過度の疲労が睡眠を妨げる場合もあります。特にハードなトレーニングを行う場合は、ロイシン高配合必須アミノ酸を摂取して、練習後の素早いリカバリーに役立てましょう。
※以下のコラムも参考にしてください
筋肉のコンディションを整える
⇒ https://runnet.jp/topics/sports/211223.html
アミノ酸スポーツ栄養科学ラボ
⇒ https://sports-science.ajinomoto.co.jp/knw0104_leucine-mix/
――2つのメカニズムをきっちり働かせることが良い睡眠のカギのようですね?
F:そうです。そのためのポイントを見ていきましょう!
F:とにかく、朝起きたらできるだけ早く太陽の光を浴びること。曇りの日や天気が悪い日でも、しっかり窓やカーテンを開けましょう。体内時計(中枢時計)は太陽の“光”の刺激でリセットされます。眠りを促すホルモン「メラトニン」は、この朝の光を浴びてから一定時間(14~16時間)を経過すると分泌量がまた増える仕組みになっています。たとえば朝7時に起床したら、23時頃には最大値に達するんですね。つまり、それがスムーズに眠りにつける時間帯ということになります。
――よくできていますね! それで毎晩自然と眠くなっているのか…!
F:朝食を食べることも、体内時計のリセットに大きな役割を果たしています。バランスの良い食事、とくに炭水化物+良質なたんぱく質を同時に摂ることが大切。“食事”の刺激によって体内時計(末梢の時計)がリセットされます。また、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、卵、大豆、納豆や豆腐などの大豆食品、肉、魚などに含まれている必須アミノ酸の「トリプトファン」は、メラトニンの元である「セロトニン」の材料となります。太陽の光を浴びて活動する、ランニングのように一定のリズムを刻む運動を行うと「セロトニン」の合成量が増えます。
「トリプトファン」を多く含む朝食を摂り、明るい光を浴びて日中過ごすことで夜間の「メラトニン」の分泌量が増加したという報告もあります。
――実は現在テレワーク生活が続いていて、通勤で規則正しく外に出ていません。朝日をちゃんと浴びたり、日中に外に出るタイミングを失ったまま過ごしているかもしれません。寝つきも目覚めも良くないような…。
F:コロナ以前とは日々の習慣が変わってしまった人も多いと思います。次回は質の良い睡眠をとるための「夜のポイント」について、食事の摂り方も含めてお話しします。
(つづく)
⇒ PART1はこちら
⇒ PART3はこちら
《参考文献》
・健康づくりのための睡眠指針2014(厚生労働省)
・健康づくりのための睡眠指針2014~睡眠12箇条~に基づいた保健指導ガイドブック
・睡眠医療 アスリートと睡眠 Vol.14 No.1 2020(ライフ・サイエンス)
・臨床 スポーツ医学 アスリートと睡眠 Vol.36 No.7 2019(文光堂)
・基礎休養学 一般社団法人日本リカバリー協会(メディカ出版)
・トコトンやさしいアミノ酸の本(日刊工業新聞社)
・e-ヘルスネット 眠りのメカニズム(厚生労働省)
⇒ https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-002.html
・いきいき健康研究所(味の素)
⇒ https://report.ajinomoto-kenko.com/suimin/nayami.html
・アミノ酸栄養科学ラボ(味の素)
⇒ https://www.ajinomoto.co.jp/kfb/sportsamino/knowledge.html