※本記事は『ランナーズ2026年8月号』掲載内容になります。
大会会場でゼッケン留め「BIB-IT(ビブイット)」を販売する余湖さん
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ランニング界を支える人々を紹介する連載。今回は大会のゼッケンをウエアに留めるアイテム「BIB-IT.(ビブイット)」を販売する余湖明智さん(54歳)です。
写真/軍記ひろし・本人提供 文/吉田誠一
大会のゼッケンをウエアに留めるには安全ピンが使われてきたが、近年、ボタン式のゼッケン留めが普及し始めた。勝田全国、館山若潮、そうじゃ吉備路、丹波篠山マラソンなどにはオリジナルのゼッケン留め(1セット4個、800円)がある。
それぞれの大会を特徴づける商品を製作しているのは株式会社RECOLTZ(レコルツ/盛岡市)。代表取締役の余湖明智さん(54歳)は「ランニングウエアがファッショナブルになったので、ゼッケン留めもファッションの一部として使ってもらいたい」と販売する。
プラスチック製のゼッケン留めは、金属の安全ピンのようにウエアに穴をあけて傷つけず、汗で錆びて汚すこともない。
「人によっては安全ピンが肌ずれして皮膚を傷めることもある。『外れてしまうのでは?』という声もいただくが、形状や素材を工夫して接触しても外れない仕様にしている」
裏パーツは粘り気があるポリエチレン製で、ドーム状で突起がないので肌を傷つけない。表パーツは加工に優れるABS樹脂製でプリントが乗りやすい。
「自分で試しに走ったり、ランナーの声を聞いたりして改良してきた。パチンとはまるホールド感にこだわった」。開発技術力が認められ、19年の岩手県発明くふう展で特賞の東北経済産業局長賞を受賞した。23年には特許を取得した。
販売は通販が軸で、個人やチームが独自のゼッケン留めをつくれるように1セットから注文を受ける。販売数は小売りだけで年間、数千セット。さらに勝田全国、館山若潮などのオリジナル品を大会サイトのバナーからECサイトに遷移させて販売している。仙台国際ハーフ、いわて盛岡シティではエントリーデータの記入時にオプション購入を受け付け、受注生産する仕組みを築いた。
仙台国際のBIB-IT.の表パーツは前年、給水所で使ったプラスチックカップをリサイクルし、大会内で資源を循環させている。SDGsの取り組みに注力する余湖さんは「安全ピン・ゼロを目指している」が、その前段階として、関係を築いてきた各地の大会主催者に「安全ピンを回収する運動をしませんか」と働きかけている。
「大会に頻繁に出るランナーの方だと家に安全ピンが大量にあるケースも珍しくない。必要な人だけに配布するほうが環境にもやさしい。送られてきた安全ピンを他の大会で使う取り組みをはじめている」
大会オリジナル商品も開発。仙台国際は大会で使用したカップをリサイクルする
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余湖さんは秋田県大仙市出身で小学5年から陸上競技を始め、高校時代は3000m障害で県大会の決勝に進んだ。仙台市の専門学校で経理を学び、そのまま専門学校の教員を務めた。その後、05年に退職し、盛岡市で起業。ヴィンテージ家具や雑貨の販売を始めた。
そんな中、陸上の世界に戻る転機が訪れた。44歳だった17年、高校の陸上部の同期生から届いた年賀状の「田沢湖マラソンを完走した」という文面に目が引きつけられた。 「あいつが走れるなら自分にもできるはず」。9月の田沢湖マラソンを念頭に置き、すぐにランニングを始めた。専門学校勤務時代から松島ハーフマラソンなどに出たことはあるが、フルマラソンは未体験。17年の田沢湖は残暑と厳しい起伏に苦しんだ末、4時間28分31秒でゴールした。
「もう走りたくないと思ったけれど、旧友たちとの打ち上げが楽しくて大会に出続けている」
レースに出るようになったことがBIB-IT.の開発につながった。50〜60年代の壁飾りなどを復刻生産するために導入したUVプリンターの活用法を考えているうちに、大会でみかけたゼッケン留めの製造に生かせるのではないかと思いついた。
「印刷を請け負うのではなく、各社の商品を使ってみて、より良いものを求めて設計図を描いた。外す時に爪を傷めず、走行中に手が当たっても外れない。ランナーである自分が安心して使えるものを作りたかった」
18年に開発・販売すると評判が良く、東北経済産業局長賞の効果もあり、売れ行きが伸びた。局長賞の表彰式と重なった19年の第1回いわて盛岡シティマラソンで初めて大会会場に出店すると、親子ランなどが行われた初日に1000セットが完売した。翌日には自身が出走して4時間7分43秒(現在の自己ベスト)で完走した。
現在は家具事業からBIB-IT.の販売に事業をほぼ一本化した。大会への出店を増やし、5月は仙台国際、いわて奥州きらめき、さがえさくらんぼの会場で販売した。取引先の大会は延べ約90大会となった。
「日本の開催大会数からするとまだ10%も関われていない。まだまだ市場は大きい」
余湖さん自身は「54歳になったので、このへんでフルマラソンの納得のいくタイムを残しておきたい。最低でもサブフォー、できれば3時間30分を切りたい。社員が5人に増えたので出店販売は任せて大会を走れそう」。10月、地元のいわて盛岡シティを楽しみにしている。
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