※本記事は『ランナーズ2026年6月号』掲載内容になります。
ランニングコーチと子育てを両立する大角さん、木下さん夫婦
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ランニング界を支える人々を紹介する連載。今回は夫婦で市民ランナーの指導を展開している大角重人さん(47歳)と木下裕美子さん(39歳)です。
写真/本人提供 文/吉田誠一
元箱根駅伝ランナーの大角重人さん(47歳)と元実業団選手で2児の母の木下裕美子さん(39歳)は子育てをしながら、夫婦で幅広く市民ランナーの指導をしている。
その活動はパーソナルレッスン、代々木公園クロカン部、ランニングフォーム改造ワークショップ、長野マラソン完走塾、ミズノランニングクリニック、人気コーヒーショップとのコラボのモーニングランをはじめ多岐にわたる。
「コロナや出産でできなくなったこともあるけれど、新しいこともできている」と木下さんは話す。コロナ禍を機にZoomを使ったレッスンやインスタライブ配信(きのこRUNインスタ部)などをスタートした。
子育てがあるので、夏は以前実施した菅平合宿(長野)などは難しくなったが、代わりに代々木公園での日帰り合宿を始めた。大角さんは「練習会は会員制ではなく、すべて都度払い制。合宿は夏場の暑い中でも40〜50人の参加希望がある。練習の合間はランチをして交流する」と語る。
教わる側の嗜好も多岐にわたり、パーソナルで木下さんとの面談を望むランナーもいる。「前回のレースに向けて、こういう練習をして、こういう結果でした」と説明し、練習の評価を望む相手に、次に向けたアドバイスをする。「子どもを産んだ後も走りたいので、産後の練習をみてもらいたい」という出産前の女性希望者もいる。
そんな2人の出会いは08年まで遡る。早稲田大学競走部で主務を務めながら箱根駅伝に出場した大角さんは一般企業に勤めた後、スターツ陸上競技部でコーチ業をスタート。07年に大学の先輩の川越学さん(昨年、急逝)に誘われてセカンドウィンドAC(SWAC)の設立に関わり、ヘッドコーチに就任した。
木下さんは3年間、所属したシスメックスを離れるにあたり、「1度はマラソンに挑戦したい」という思いを募らせ、08年にSWACに加わった。そこで大角さんとの縁ができた。
SWACはクラブ会員の会費を選手強化費に当てる一方で、マラソン日本代表の嶋原清子さん、加納由理さんら所属選手が会員の練習会で市民ランナーを指導する斬新な運営形態を確立していた。木下さんも指導に携わり始めた。
その経験がいまにつながっている。2人はSWACから独立し、市民ランナーの指導を続け、18年に結婚。選手でありコーチでもある木下さんは19年の大阪国際女子で2時間34分19秒の自己ベストを記録した。
夏場は代々木公園で日帰り合宿を開催。40~50人が参加する
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2人のレッスンの受講者は女性の割合が高く、木下さんのパーソナルレッスンの場合、8割を占める。ランニングクラブは増えたが、女性のコーチは限られている。しかも、木下さんがママさんランナーであることが女性を引きつけるのだろう。
木下さんは22年に長男を出産し、10カ月後の長野マラソンを2時間52分50秒で走り、25年の次男出産から1年の今年3月には東京マラソンで2時間52分48秒を記録した。その経験があるから、「妊娠後、走ってもいいですか」と相談されることが多い。
木下さんは長男の時は妊娠7〜8カ月まで走っていたが、次男の時はほとんど走らなかった。
「医師との相談が前提で、個人差もあるので断言できないけれど、走らないとストレスがたまるのであれば走るという選択もある。逆に走ることが胎児に悪影響があるのではと不安に思うなら、無理せずやめたほうがいい」
SNSでのママさんランナーへの情報発信も経験者ならではだ。
「目の前に守らなくてはならない子どもがいるから、お母さんは自分のケアを後回しにしがち。子育てで時間がないから自分の身体のメンテナンスがおろそかになる人もいる。抱っこでの筋肉の緊張や、食事を後回しにした空腹や栄養不足。自分の身体の状態が悪いと、イライラして子どもに優しくできない。だから、まずは自分を大事にしてほしい」
子どもを産んでからのトレーニングではなにより無茶をしないことが重要だという。「自分が思うよりも走れないのが当たり前。その時に予定通り練習できなくてやめるのではなく、できることを置かれた環境でこなすことが大切。記録を更新できなくても、いまのベストで走っていることに自信を持ってほしい」
2人でコンビを組んでのコーチ業や子育てについて、大角さんは「二人の知見が共有できるので、異なる視点で物事をみることができる。お客さんの動画をみながら、フォーム改善にはこのアプローチがいいのではという相談を家ですることも。子育てでは、時間をコントロールできる職業なので子どもと関われて楽しい」という。
木下さんが朝のレッスンを担当している間は大角さんが子どもの食事と保育園への送りを受け持ち、木下さんが戻ったら大角さんがレッスンに出かける。その逆もあるし、代々木公園で交代ということもある。
大角さんは「子どもたちが成長して、たとえば習い事を始めたら仕事が制約されるかもしれない。それに合わせて『チーム大角』としてできることをやっていきたい」と話す。できなくなることがあるかもしれないが、また新たにできることを見つけていくのだろう。
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