※本記事は『ランナーズ2026年1月号』掲載内容になります。
ランナーのサポートや取材で関わった大会のADカードをかけるラーナーさん
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ランニング界を支える人々を紹介する連載。今回はウェブメディア「Japan Running News」を運営するブレット・ラーナーさん(52歳)です。
写真/軍記ひろし、本人提供 文/吉田誠一
英語ウェブメディア「Japan Running News(JRN)」には日本の陸上長距離に関する情報がたっぷり詰まっている。この秋なら箱根駅伝予選会、東京レガシーハーフ、全日本大学駅伝をはじめとした大会の詳報。
1964年東京五輪の銅メダリスト、円谷幸吉さんの兄の祖孫に当たる円谷春陽選手(須賀川第一中学)の活躍、全国高校駅伝北海道予選の旭川龍谷高校のフィニッシュ直前の悲劇(選手の骨折により棄権)など、知る人ぞ知るストーリーもある。
カナダ出身の編集者、ブレット・ラーナーさんは独自の記事に、他メディアの翻訳を合わせて、毎日のように海外向け発信を続けている。専門的なテーマながら、年間閲覧数は150万回を超える。
海外からの執筆依頼も多く、最近では、駅伝の折り返し地点をバックステップで方向転換する通称「鶴谷ターン」に関する記事を求められた。
「日本の駅伝に興味を持つ海外のランナーは年々増えている。正月に箱根駅伝を観戦するためだけに来日したい人もいるほど。この2〜3年は観戦ポイントなどの問い合わせが多い」
ラーナーさん自身はアメリカの高校で陸上を始め、ウェズリアン大学では脳科学を専攻した。その大学時代、92年バルセロナ五輪男子マラソンのファン・ヨンジョ(韓国)と森下広一の一騎打ちに感銘を受けた。「負けたけれど、森下さんの強さとシャープさが印象的で、自分もマラソンを走りたいと思った」
93年の初マラソンは2時間56分41秒。ボストンマラソンを2度走り、自己最高は2006年別府大分の2時間34分43秒。現在も年5〜6大会に出ている。日本との縁は箏(こと)の第一人者、沢井一恵さんの演奏会に触れたことに始まる。97年、箏を学ぶために来日。プロの箏奏者となった。
当時、日本のマラソンについて知っていたのは、同じ大学出身のビル・ロジャースを3度破った瀬古利彦と、森下のことだけだった。
日本で驚いたのは、秋から春の週末はマラソンか駅伝のテレビ中継が頻繁に流れていることだった。自身は現在東京マラソンの海外向け放送の解説者を務めるが、放送の質の高さに当時は魅了された。いまも日本の中継技術は世界一だと絶賛する。
「様々なことが起きているのにアメリカの放送は先頭集団しか流さない。日本では第2、第3集団も映して、後方から選手が追い上げてきたらバイクで迫って、その様子を見せてくれる。レースの中に複数のストーリーがあることを感じさせてくれる」
当初、日本語はできなかったが、新聞、雑誌で陸上の記事を読みあさるうちに身につき、07年にJRNをスタートした。
「当時は日本国内のランニング事情は日本語のみの発信。これを埋もれさせておくのはもったいないと思った」
最初に海外で話題になったのは上尾シティハーフの記事だった。「一緒に出たニュージーランド人が67分だったと言うから、『優勝?』と聞いたら287位だというので驚いた。海外の市民レースでこのタイムだと優勝はできなかったとしても上位になるのが普通」。そのエピソードをもとに日本の学生や市民ランナーのレベルの高さを伝えた。
すると、ニューヨークロードランナーズの招待選手担当者から「こんな大会は聞いたことがない。この記事はフェイクでしょ」というメールが届いた。
2007年に初めて上尾シティハーフマラソンを取り上げた記事
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事実と認めさせたことで、この担当者と関係ができた。その縁で上尾シティハーフの日本人学生上位2人がNYCハーフに招かれるようになり、過去には設楽悠太選手、赤﨑暁選手らが学生時代に出場。海外の大会主催者から「日本選手を招くにはどうしたらいいか」という問い合わせも届き始めた。依頼に応え、09年コペンハーゲンマラソンに派遣した市民ランナーが優勝。10年にはオタワマラソンにつないだ藤原新さんが大会新で優勝した。
「私は基本的に運がいい。これでいろいろな扉が開いた」。海外の人脈が広がり、日本と海外の橋渡しの仕事が始まった。
その後、国際大会や商業契約を適正に取り扱うために義務づけられた、世界陸連公認選手代理人(AR)資格を取得。現在は、今年の東京マラソンで日本人トップとなったサンベルクスの市山翼選手をはじめ、15人のランナーと代理人契約を結ぶ。大会出場のサポート、スポンサー契約の仲介に携わる。「この仕事はお金じゃない。何かを持っていると信じた選手が結果を出してくれたときが一番うれしい」
湘南国際の海外向けPR、ヴェニスマラソンの日本でのPRにも携わり、新潟とオーストラリアの大会ディレクターにも就任している。日本から海外へ、海外から日本へと選手、市民ランナーをつなぐ。
バルセロナ五輪25周年の17年には、バルセロナマラソン事務局から「アジア人のメダリストを招きたい」と連絡を受けた。有森裕子さん、森下さん、ファンさんと現地入りし、大会前日のファンランで一緒に走った。
「マラソンを始めるキッカケをもらった森下さんと25年後に、五輪マラソンコースのモンジュイックの丘を走っているのが不思議だった。人生はすごいですね」。どう道が敷かれてきたのか分からないというが、国内外の大会を慌ただしく巡る日々を送っている。
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